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技術ライセンスにおけるリスク及びその対策

作者:張涛 | 更新しました:2020-02-21 | ビュー:

前回、技術ライセンスにおけるリスクと予防対策の一部を紹介した(弊所2019年12月newsletterをご参照ください)。

今回、続けて、技術自体に関わるリスク、技術ライセンスロイヤルティの回収法によるリスク、及びライセンス行為自体に存在するリスク及びその対策を紹介する。

 

1.技術自体に関するリスク

技術自体に関するリスクは主に主体リスク及び客体リスクを含む。ここでいう主体は主にライセンサーを指し、客体はライセンスされた技術(特許技術を含む)を指す。

 

1-1.主体リスク

主体リスクはライセンサーとしての主体資格に欠陥があるため、ライセンス契約が履行できない或いは契約自体が無効になるリスクを指す。主体リスクに主に次の二点を含む。

 

(1)ライセンサーは技術の法的な所有者ではないこと

中国「契約法」349条には、「技術譲渡契約の譲渡人は自らが提供される技術の適法的な所有者であること、提供される技術が完全で、正確且つ有効で、合意された目標を達成できることを保証しなければならない」と規定されている。

ライセンサーは、技術の合法的な所有者ではないにもかかわらず、技術ライセンスをライセンシーにライセンスした場合、契約締結上の過失について責任を負う(中国「契約法」42条)。情状の重大な場合には、刑事責任を負うこともある。

一方、ライセンシーは、ライセンサーが技術の合法的な所有者ではないことを知らずに、契約を結んで該技術を実施する場合には、契約の履行不能のリスクだけでなく、初期の資金、人材等への投資などの損失が発生するリスクに直面する。技術が特許技術である場合、他者の権利侵害のリスクにも直面する。

従って、ライセンシーは、技術ライセンス契約を結ぶ前に、たとえば、ライセンサーに対して、技術の開発記録や実験データなどの提供を求めたり、特許技術の場合、特許登録原簿の提出を求めたりして、ライセンサーが該技術の法的な所有者であることを確定すべきである。

 

(2)技術の所有者が複数であるが、ライセンサーはその中の一人であり、他の所有者の同意を取得していなかったこと。

ライセンサーが技術の合法的な所有者であるが、技術の所有者は複数いる場合がある。この場合、ライセンサーが他の所有者の同意を得ずにライセンシーに当該技術をライセンスしたとき、他の所有者は該当ライセンスを容認せず、ライセンス契約解除を主張する場合、該当ライセンサーはライセンシーに対して契約締結上の過失責任を負い、他の所有者に対して権利侵害責任を負う可能性がある。

 

1-2.客体リスク

客体リスクは主にライセンスされた技術の欠陥によるリスクを指し、主に次の三点を含む。

(1)ライセンスされた技術はまだ未熟なものであり、予定の目標を達成できず、又は安全の面で問題が存在すること。

ライセンスされた技術、特に先進な技術は、工業生産で実施された時間が短いため、技術が不安定であること、生産率が低いこと、或いは技術の実施において、安全性または環境汚染などの問題が起こる可能性がある。

このような技術について、ライセンスしてはいけないということがないが、ライセンス契約で上記の状況について明確に規定すべきである。例えば、

- 適当に技術ライセンス費用を低減すること

- ライセンサーはライセンシーに対し適当な技術指導を与えること

- 双方は技術に存在する問題についてさらなる研究開発を行うこと

等の条文を入れたほうが良い。

 

(2)ライセンスされた技術は他者の権利を侵害すること

ライセンスされた技術が他者の権利を侵害することは主に二種類の状況を含む。

- ライセンスされた技術は他者の知的財産権を侵害すること

- ライセンスされた技術が既存の基礎特許に基づくもののため、ライセンシーが当該技術を利用すると、基礎特許の特許権が侵害されること。

上記リスクを回避するために、当該技術に対しFTO調査や分析を行い、当該技術には権利侵害のリスクが存在するか及び前の基礎特許に基いて実施されなければならないかを確定することが必要である。

 

(3)ライセンス技術に対応する特許が無効とされたこと

中国「特許法」47条の規定によれば、「特許が無効とされた場合、最初から存在しないことと見なす。特許を無効とする決定は、特許が無効とされた前に人民法院が作成し、執行した特許侵害の判決又は調停、履行されたまたは強制執行された特許侵害紛争の処理について決定、及び履行された特許ライセンス契約又は特許権譲渡契約に対しては、遡及力を有しない。但し、特許権者の悪意により他者に損失をもたらした場合、特許権者は損害賠償の責任を負う。前記の規定によれば、特許侵害損害賠償金、ライセンスロイヤルティ、特許権譲渡費用を返却しないことは明らかに公平の原則に違反すると判断される場合、ライセンサーはライセンスロイヤルティの全部又は一部をライセンシーに返却するべきである。」

上記の規定によれば、ライセンサーは、該特許が無効とされうること又は既に無効されたことを明らかに認識しながら、当該情報を隠蔽し、当該特許技術をライセンシーにライセンスした場合、「悪意により他者に損失をもたらした」ことにあたるとして、損害賠償責任を負う可能性が高い。

一方、特許が無効されることによる損失をできるだけ避けるために、特許技術についてライセンス契約を結ぶ場合には、ライセンシーのほうが特許に対して安定性鑑定を行ったほうがよい。

 

2、技術ライセンスロイヤルティの回収法に由来するリスク

技術ライセンスロイヤルティの回収法は主に次の三つの方法を含む。

 

(1)固定ロイヤルティ(Lump-sum Payment)

即ち、ライセンシーは一括ですべてのロイヤルティをライセンサーに支払う。

ライセンサーにとって、ライセンシーの生産、販売拡大によりもたらした売上高の大幅な向上による利益をシェアできないリスクがある。

一方、ライセンシーにとって、ライセンサーが「固定ロイヤルティ」を回収した後、技術指導を拒み、又は怠るリスクもある。

 

(2)ランニング・ロイヤルティ(Running Royalty)

即ち、ライセンサーはライセンシーが当該技術による利益から一定の割合でロイヤルティを徴収することである。

ライセンサーにとって、ライセンシーが経営不振又は赤字になる場合、ライセンサーは多大な損失を被ることになるリスクがある。また、ライセンサーはライセンシーの収益を統計し難く、ライセンスロイヤルティの計算も困難になることもある。

ライセンシーにとって、例え自身の生産拡大或いはマーケティング(技術自体による利益ではなく)による利益にもライセンサーにシェアされる可能性がある。また、自身の経営状況(売上額、利益などのデータ)が他人に漏洩することもある。

 

(3)頭金+ロイヤルティ(Initial Down Payment & Royalty)

即ち、ライセンシーはまず一部の技術ライセンスロイヤルティを払い、その後、当該技術による収益をベースに技術ライセンスロイヤルティをライセンサーに支払う。

この方法はよく採用された方法であり、多くのメリットがある。ライセンサーは技術開発コストの一部を迅速に回収し、かつライセンシーの売上高向上による利益をシェアできる。ライセンシーはまだ利益を獲得していないときの巨額の固定ロイヤルティの支払いを免れ、ライセンシーの経済的圧力を軽減することができ、ライセンサーが「固定ロイヤルティ」を回収した後、技術指導を怠ることを心配する必要がない。

 

3.技術ライセンス行為自体のリスク

技術ライセンスという法的行為自体にもリスクが存在し、次では以下の三点を紹介する。

 

3-1.潜在的な競合相手(ライバル)を育てること

ライセンサーは技術をライセンシーにライセンスした後、ライセンシーは必ず当該技術について研究を行い、その結果、当該技術を把握する。ライセンシーは当該技術を把握した後、当該技術自体を改良し、或いは当該技術を実施するための技術を改善して、ライセンサーの技術上の競合相手になる。また、一般的に、ライセンシーはよりよくかつより便利な販売ルートを有する可能性があるので、ライセンサーの市場シェア及び販売ルートでの競合相手になる可能性がある。

 

3-2.技術秘密(ノウハウ)の漏洩

多くの場合には、技術ライセンス行為は技術秘密(ノウハウ)のライセンスに関わる。従って、いかに技術秘密(ノウハウ)の漏洩を防ぐことは検討すべきである。

 

次は技術秘密(ノウハウ)の漏洩を防ぐ方法についていくつか紹介する。

(1)技術秘密の守秘契約を締結すること

(2)技術秘密を知りうる者の人数を制限し、技術秘密の階層管理を行うこと

特許契約書或いは秘密保守契約書に当該秘密を知りうる具体的な者の人数或いは具体的な人員を規定する。当該秘密のレベルに応じて、管理レベルを規定する。秘密のレベルが高ければ高いほど、該秘密を知る者が少なくなる。

(3)技術ライセンスの交渉段階(まだ合意が達成していない段階)では、技術秘密をライセンシーに渡さないこと。

(4)秘密分割

技術秘密に関わる技術を複数の部分に分割し、各部分を異なる人に知られることによって、できる限り秘密の完全な漏洩を防ぐ。

(5)区域制限

技術秘密資料の保存場所、利用場所、研究検討の場所について厳密に制限する。即ち、技術秘密に関する資料は指定の保存場所から持ち出すことができない。技術秘密に関わる技術の利用場所を閉鎖する。指定場所以外に該技術秘密を検討することを禁止する。

(6)秘密混同

複数の技術を技術秘密と定義して、そのいずれに対しても守秘措置を施す。しかしながら、実際にはこれらの技術には一項或いは複数項のみが技術秘密である。その結果、不法的に技術秘密を獲得しようとする人は本当の技術秘密を知ることができなくなり、違法行為の困難度を向上する。

(7)秘密にマークをつけること

技術秘密に関わる技術を実施する際に、原料や生産プロセスなどに意図的にマークを付け、当該技術による製品には特定のマークを付与する。これによって、技術秘密が漏洩する場合、証拠収集にあたって、当該特定のマークによって、当該技術が実施されるかどうかを判断できる。

(8)守秘対価

ライセンス契約或いは守秘契約に、秘密漏洩の対価条項を設置する。一旦秘密が漏洩すると、ライセンシーは巨額な賠償を負担することになる。よって、ライセンシーによる技術秘密の守秘措置を強化する。

(9)技術秘密を半製品化又は完全設備化(プラント化)する。

技術秘密に関わる技術をライセンシーに告知せず、当該技術を半製品化又は完全設備化(プラント化)する。その結果、ライセンシーが技術秘密に関わる具体的な技術を知ることは難しくなり、技術秘密の漏洩の可能性が減少する。

(10)行政、刑事などの手段

技術秘密漏洩の行為に対し、行政的、刑事的な措置を取る。

 

3-3.改良技術の帰属

中国の「契約法」54条の規定によれば、「当事者は相互利益の原則に従って、技術渡譲契約に、ライセンス又は技術秘密の利用後の改良による技術的成果の共有方法を約束することができる。約束がない場合又は約束が不明確な場合、中国「契約法」61条の規定によってもなお不明確な場合には、当方の技術改良による技術成果について、他者には共有する権利がない。」

上記規定によれば、改良技術の帰属は契約優先原則を採用する。従って、ライセンサーとライセンシーにはライセンス契約に改良技術の帰属について約束することができる。

 

以上では、技術ライセンスにおけるリスクを紹介した。しかし、技術ライセンスは法律、商業、技術などを含む複雑な行為であり、商業的リスクだけでなく、各国の法律の相違により、ライセンスの当事者が法律に対する理解、技術の認定や需要も異なる。これらの相違点は様々なリスクを齎す。従って、技術ライセンス契約を結ぶ場合には、法律、商取引、技術などの観点からリスクを考慮した上で対応する必要がある。

 

本文を作成するにあたり、弊所弁護士である牟科博士に丁寧なご指導及び内容提供をいただき、心より感謝を申し上げる。