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商業秘密保護における秘密保持措置

作者:牟 科 | 更新しました:2021-03-02 | ビュー:

専利制度の「公開することで保護を得る」と異なり、商業秘密保護の本質は「秘密保持によって保護する」ということにある。即ち、価値のある情報に対して適切な秘密保持措置が講じられ、かつ公衆に知られていないという効果が生じた場合に、その情報が商業秘密として認められる。

商業秘密は秘密性、価値性、秘密保持性という3つの構成要件があり、その内、最も重要なのは秘密保持性(即ち、相応な秘密保持措置を講じる)である。商業秘密の具体的な内容によって、所要の秘密保持措置が異なるため、企業にとって、商業秘密によって保護しようとするものが司法に認められるように、適切な、合理な秘密保持措置を策定する必要がある。

異なる商業秘密に対してどのような秘密保持措置を講じればよいか、どのような秘密保持措置が必要であるか、どの程度の措置であれば商業秘密の漏洩防止に十分だと言えるかについて、最高人民法院の近年の判例によって説明する。


秘密保持契約の必要性について

秘密保持契約は、商業秘密の保護に重要な役割を果たす最も一般的な秘密保持措置である。以下の表は、秘密保持措置が不適切であるため、商業秘密が認められないケースを示している。

番号

案件番号

秘密タイプ

秘密保持措置と認められない理由

ケース

(2016)最高法民申3774号

技術秘密:アパートのベッド

秘密保持条項なし

ケース

(2017)最高法民申2945号

経営秘密:顧客リスト

秘密保持契約なし

ケース

(2016)最高法民申2161号

技術秘密配管水性専用洗浄液

労働契約における秘密保持条項は原則的な規定に過ぎず、特定の技術情報または経営情報を秘密保持する合理的な措置を構成するに足りない。

ケース

(2017)最高法民申2964号

技術秘密

経営秘密

1、原則的な規定に過ぎない。

2、秘密保持の客体が明示されていない。

3、競業避止契約では秘密保持の意思及び情報範囲が明確にされていない。


ケース1とケース2では、原告は商業秘密保持の意識がなく、秘密保持条項や契約を締結していなかった。2019年改正の『不正競争防止法』は、2017年の「約束、又は権利者の商業秘密保持に関する要求事項に違反して、保有している商業秘密を開示、使用し、或いは他人に使用を許諾する」との規定を「秘密保持義務、又は権利者の商業秘密保持に関する要求事項に違反して、保有している商業秘密を開示、使用し、或いは他人に使用を許諾する」に改正し、範囲は当事者双方にとっても明確な秘密保持の約束から黙認の秘密保持義務に拡大したが、実務においては、やはり秘密保持契約または秘密保持義務の明示のほうが商業秘密の保有者にとって有利である。

ケース3とケース4では、秘密保持の客体と範囲が明確ではないため、権利者の秘密保持措置が認められなかった。そのため、何に対して秘密保持するかをできる限り明確にする必要があり、「すべての事項を商業秘密にする」という旨の約束条項、あるいは想到できるすべての商業秘密を列挙している約束のフォーマットテキストは、訴訟において特定の商業秘密と関連性がなく、秘密保持措置の対応性が欠けると認定されるリスクがある。その対応策して、秘密が生じ次第、その秘密に関する秘密保持契約を結び、即ち秘密内容毎に複数の秘密保持契約を締結するのは、合理的な秘密保持措置になると思われる。

以上の判例から分かるように、秘密保持契約が不可欠なもので、該契約において保護しようとする商業秘密を特定する必要もある。


秘密保持措置の合理性について

現行の法律・法規に合理的な秘密保持措置が強調されているが、どのような秘密保持措置が合理的であるか、措置が多ければ多いほどよいのか、秘密保持契約という措置だけでは合理的と認められるかの判断はケースバイケースである。

例えば、(2015)民申字第1518号の判決において、原告は2200万元以上に値する商業情報をただ1つの秘密保持条項で保護できた。この判例では、原告のA社の商業秘密は、ある外国企業が中国で石油掘削プラントを購入したいという情報であり、A社はB社の高級管理者の陳氏にコンタクトして上記外国企業とB社の売買契約の締結を促し、最後には客観的な理由で契約は履行できなかったが、その後、陳氏はC社の高級管理者になって上記情報を利用した。判決によれば、上記情報が商業秘密として認められ、A社とB社が締結した秘密保持条項は秘密情報の漏洩防止のために講じた相応な、合理的な秘密保持措置に属し、A社は秘密保持措置を講じたと認定された。

この判例において原告の秘密保持措置は弱そうであるが、当時の実際の状況で原告はおそらくこの程度の措置しか取れないから、該秘密保持条項は合理的な秘密保持措置と認められた。


権利共有者の責任について

商業秘密は複数の人に共有されることもあり、各共有者の秘密保持措置はそれぞれ違う場合、それぞれ取られている秘密保持措置が互いに補完できるか、それとも、それぞれ最低限の秘密保持措置が取られないといけないかについて、(2017)最高法民申1602号の判決が参考になる。

この判例において、複数の人は商業秘密を共有しているが、完備、かつ合理的な秘密保持措置を取っている人はいない。それぞれの秘密保持措置は複数の共有者間で共有できると原告は主張しているが、「本案に関する情報が共有されている状況では、各共有者が取っている秘密保持措置を互いに代替することができない。共有者の内の一人が合理的な秘密保持措置を講じているとしても、他の共有者が当然に合理的な秘密保持措置を講じているとは言えない」と最高人民法院は判断した。


秘密保持措置の合理性の証明について

場合によって、被告の権利侵害行為により権利者の秘密保持措置の合理性を証明することも可能である。

(2015)民申字第2035号判例において、技術秘密はビタミンB5の製造プロセス、操作規程などであり、裁判所に認められた原告の秘密保持措置は秘密保持制度と秘密保持契約だけであるが、本案に関わる刑事判決において、被告は原告の従業員に対する賄賂などの不法手段によって商業秘密を取得したことが認定されたため、それによって、原告は相応の秘密保持措置を講じていることが証明できた。


まとめ

商業秘密は企業の最も重要な資産の一つであり、それに対して十分な管理と保護措置を講じる必要がある。商業秘密が生じたら、意図的、又は非意図的に漏洩、窃盗されないように、企業はその秘密の特徴に応じて積極的にさまざまな秘密保持措置を講じなければならない。