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中国初の「医薬品特許リンケージ」訴訟事件

作者:張 瑤 | 更新しました:2022-07-04 | ビュー:

2021年11月に、北京知的財産法院は初の「医薬品特許リンケージ」訴訟事件を受理した。当該事件の原告が中外製薬株式会社で、上市医薬品である「エルデカルトールソフトカプセル」の上市許可保有者であり、2021年7月13日に中国上市医薬品特許情報登録プラットフォームで当該医薬品に関する特許「ED-71製剤」(ZL200580009877.6)を登録した。被告は温州海鶴薬業有限公司で、国家医薬品監督管理局に「エルデカルトールソフトカプセル」という後発医薬品の上市許可申請を行う時、中外製薬株式会社が中国上市医薬品特許情報登録プラットフォームに登録した特許情報について第4.2類声明(後発医薬品が関連特許権の保護範囲に含まれない)を出した。原告は、被告が登録申請した当該後発医薬品について行った当該第4.2類声明に対して、訴訟を提起し、被告が登録申請した後発医薬品が原告の特許権の保護範囲に含まれることの確認を請求した。

2022年4月15日に、北京知的財産権法院は、当該事件の審判結果を公表した。法院は審理を経て、「係争後発医薬品が係争特許権の保護範囲に含まれているとの原告の主張が成立しないため、原告の訴訟請求を棄却する」との判決を下した。その判決に対して、原告の中外製薬はその場で上訴の意向を示したが、被告の温州海鶴薬業は第一審の判決結果に承服すると表明した。

原告の中外製薬株式会社は多国籍医薬の巨頭であるロシュ・グループの傘下企業であり、それが研究開発した「エルデカルトールソフトカプセル」は、最初に2011年に日本で上市が承認され、関連特許権が付与された。「エルデカルトールソフトカプセル」に関する特許はPCTルートにより中国に移行し、2010年12月8日に特許権が付与された。2020年12月11日に、「エルデカルトールソフトカプセル」が中国で正式に上市が承認された。

「エルデカルトールソフトカプセル」に関する特許に対して、2021年4月15日と2021年6月10日に、四川国為製薬有限公司と正大天晴薬業集団株式会社はそれぞれ相次いで特許無効請求を提出した。審理を経て、当該特許が一部無効となり、特許権者の中外製薬株式会社は請求項1に対して「請求項の更なる限定」という補正を行い、製剤に用いられる酸化防止剤を具体的に「d1-α-トコフェロール」に限定した。

本稿の投稿日までに、北京知的財産権法院はこの事件の判決書を公開していないため、係争後発医薬品が係争特許権の保護範囲に含まれないと判断した裁判官の具体的な根拠はまだ分からないが、上記の一部無効の結果と関連する可能性が考えられる。本事件は第四回改正特許法が実施されてから中国初の医薬品特許リンケージ訴訟事件として、メディアから注目され、我々もこの事件のこれからの進展に注目し続ける。