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販売による公然実施の証拠チェーンの構築

作者:謝辰 | 更新しました:2022-12-07 | ビュー:

1.序言

中国では、無効宣告段階において、公然実施に関する証拠の審査が厳しい。一般的に、1つの公然実施の証拠だけで、技術内容の開示と公開時間との両方を証明できることが少ない。したがって、「高い蓋然性」という証明基準を達成するために、複数の証拠を組み合わせて証拠チェーンを構築する必要がある。本文は最近の事例に基づいて、販売による公然実施の証拠チェーンの構築について検討する。


2.法律の基礎

『専利法』第22条第5項の規定によると、「従来技術とは、出願日前に国内外で一般に知られていた技術をいう」。

『審査指南』では、さらに、「従来技術は、出願日前に公衆が知り得た技術的内容でなければならない。言い換えれば、従来技術は、出願日前に公衆が取得できる状態にあり、かつ公衆がその中から実質的な技術知識を知り得るような内容を含んでいるものでなければならない」と詳しく規定されている。

公然実施は、従来技術の公開方式の1つである。公然実施には、公衆がその技術の内容を知り得る製造、使用、販売、輸入、交換、贈呈、演示、展示などの行為が含まれる。また、関連技術を知りたい公衆が知ることのできる状態になれば、公然実施となり、知り得た公衆が確かにいるかどうかは考慮されない。

これにより、公然実施の立証は、実質的な技術知識を含むことと、出願日前に公衆がその技術知識を知りたいとすれば知ることができる状態にあることという2つの要件を満たしなければならない。

実務では、よくみられる公然実施は販売行為である。通常、特定な秘密条項が約束されなく、製品が公然に販売されると、公衆が直接に製品を入手できるため、製品に含まれる技術が公衆にとって知りたいとすれば知ることができる状態になる。したがって、販売による公然実施の立証には、販売された製品に特許関連技術が含まれ、かつ、販売行為が出願日前に発生したことを証明できれば、特許関連技術が従来技術とすることが認定できる。


3.公然実施の証拠チェーンの構築

無効宣告段階では、公然実施を立証する目的は、公然実施品を従来技術として対象特許の新規性や進歩性を評価することである。したがって、公然実施の証拠チェーンには、対象特許に関連する技術の公開性を明確に証明できる核心的な証拠が少なくとも一つ含まれるべきだと思う。次に、この核心的な証拠が公開内容と公開時間との要件を満たすかを考慮し、他の証拠を補充することもある。一般的には、公然実施の時間などを証明できる証拠を補充することである。

販売による公然実施の証拠チェーンでは、核心的な証拠は、技術内容を反映できる非現物証拠と、実際の製品である現物証拠との2種類を含む。核心的な証拠の種類によって、補充証拠の選択、証明の難しさ、注意すべきポイントがそれぞれ異なる。


3.1 非現物証拠について

技術内容を反映できる非現物証拠には、紙の文書、ウェブサイトの記事、ウェブページ上の写真、ビデオなどがある。その利点は、証拠自体に技術内容が直接に記載されているため、証拠の形成時間が技術の公然実施の時間と認められる。また、このような証拠に公開時間の情報が含まれていることが多く、それ自体が強い証明力を持っている。

事例1) 

無効請求人は、信頼できるタイムスタンプ認証証明書のコピー及び、電子証拠を取得する過程のスクリーンショットの印刷品を提出した。スクリーンショットには、タオバオ(淘宝)の注文情報と取引スナップショットが含まれる。取引のスナップショットに示された注文情報によると、関連商品の構造や、出願日前に関連商品の販売が成約したことが分かる。そして、タオバオの取引スナップショットのルールによると、スナップショットで商品の販売状況を固定し、成約時の商品の詳細を記録している。通常、売買双方はスナップショットに記載されている内容を編集したり修正したりする権限がない。そのため、合議体は、これらの証拠の真正性を認め、取引スナップショットの内容を従来技術とすることができると認めた 

事例2) 

無効請求人は、出願日前に締結した販売契約書を提出し、その契約に手描きの製品断面図が添付されていた。さらに、当該契約に対応する領収書も提出した。領収書に記載された製品の仕様などは、契約に記載された数量、金額に対応することができる。契約書と領収書の情報が相互に裏付けられているため、契約書自体の真正性を確認することができるが、契約書に添付された製品の断面図は手描きであるため、この図が契約書と同時に形成されるか否か、この契約書だけでは判断できない。無効請求人は、同じ会社が締結した複数の契約書および領収書を提出し、すべての契約書には手描き製品の断面図を添付していた。この会社の取引習慣に基づいて、販売契約に添付した手描きの製品断面図は販売契約と同日形成されることが認められた。本件にも、続いた行政訴訟の一審、二審にも、これらの証拠を従来技術とすることができると認定された。

一方、非現物証拠は、取引や宣伝に使われるものが多く、製品の外観しか示さず、製品の内部構造に関する技術内容をはっきりと反映できないことが多い。そのため、非現物証拠だけで対象特許の技術内容が十分に公開されていない可能性があり、公然実施行為の真正性が認められるとしても、特許にかかる技術内容を公開しないと認定される可能性がある。

事例3) 

無効請求人は、ウェイボーに動画を投稿したことを証明するタイムスタンプ認証証明書及び、中国香港で作成したYoutube動画の公証書類を提出した。合議体は動画が出願日前にインタネットで発表されることを認め、動画の内容が従来技術とすることができると認定した。しかし、動画では、関連部品の構造をはっきりと確認できず、製品構造に関する詳細な紹介もない。そのため、合議体は、公然実施証拠が対象特許の技術的特徴を公開しないと認定し、特許権を維持すると認定した。

そのため、非現物証拠を立証する時に、対象特許の技術的特徴をはっきり開示したか否かを注意するべきであると思う。


3.2 現物証拠

現物証拠は、通常、公証によって得られた現物の製品や、現物製品を直接分解して撮影した写真やビデオなどである。このような証拠は、技術的特徴との比較がもっと明確であるが、公然実施の時間に関連する情報が含まれていない可能性があるため、現物証拠に反映された技術が出願日前に公開されたことを他の証拠によって証明する必要がある。この場合に、現物証拠と他の証拠との関連性は特に重要である。

現物証拠については、その形成時期によって、出願日前に形成されたものと、出願日後に形成されたものと、2つの状況を含むと思う。


3.2.1 出願日前に形成された現物証拠について、通常、出願日前に販売された製品を入手し(例えば公証)、当該製品の販売に関する契約、領収書、送り状などの証拠と結び付け、比較的完全な証拠チェーンを構築できる。しかし、取得された現物証拠は、販売後に長い時間が経過したことが多く、その構造や部品などが変化する可能性がある。また、取引に関連するチケットが紛失し、証拠チェーンに欠陥がある可能性もある。

事例4) 

無効請求人は、出願日前に販売されたエアコンに対して、公証人の立ち合いで、購入者の自宅に行き、エアコン室外機用の送風機を現場で解体し、写真を撮った。さらに、購入者から当該エアコンを購入する領収書を手に入れた。エアコン室内機に表示されている型番、製造日などは、領収書に記載されている型番と裏付けられているため、証拠の真正性が合議体に認められた。特許権者は送風機が後で交換される可能性があると主張したが、合議体は、室外機の取り付け位置、取り外し難さなどを総合的に考慮し、送風機が最初から取り付け後に交換される可能性が低く、かつ、送風機が後で交換される可能性があるという主張について何の証拠も提供されないため、特許権者の主張を認めなかった。

事例5) 

無効請求人は、公証によって現場で証拠としての設備に対してビデオと写真を撮影した。また、設備に関連する販売契約、送金記録、領収書などを提出した。契約書に記載されている買主が設備の所在会社と一致し、契約書にかかる商品の品名及び型番が設備の銘板に記載されている内容と一致しているため、二つの証拠は強い関連性があり、その真正性が合議体に認められた。

事例6) 

無効請求人は、公証取得された設備の写真、契約の写真、技術文書の写真などの証拠を提出した。しかし、契約と注文書の内容は、設備の銘板情報と対応できないため、書証と設備の関連性を証明できる完全な証拠チェーンを形成することができない。また、設備の銘板情報は、製造時期しか表示せず、契約と注文書には、納期及び契約の締結時期のみが記載され、販売の時間を証明できない。よって、これら証拠に基づいて設備の販売日を推定することはできない。そのため、上記の証拠は従来技術としては使用できなかった。

事例4)~6)によると、現物証拠と他の証明資料とを結びつける媒体として、製品または設備の型番がよく使われる。型番が一致した場合、特許権者が有力な反証を挙げることができなければ、請求人の証拠の真正性が認められることになる。また、契約書や領収書などの証明資料は、公然実施の時期を証明するための通常の証拠であるが、契約が有効であるかどうかを確認できない可能性がある。通常のビジネス習慣からみると、領収書が一般的に契約が発効して支払いが完成した後に形成されるため、領収書は公然実施の時期を証明するには有力な証拠であると思う。


3.2.2 出願日後に形成された現物証拠について、通常、現在販売されている製品を公証取得する。取得された製品は出願日後に販売されたものであるが、出願日前にも同じ製品が販売されたことを証明できれば、製品に含まれる技術が出願日前に公然実施されたことを証明できる。そのため、同じ型番の製品が出願日前に販売された証拠と結び付け、比較的完全な証拠チェーンを構築できる。

事例7) 

無効請求人は、公証人の立ち合いでアマゾンサイトから製品を購入した。同サイトでは、同型製品の陳列時期が出願日前であることが示されている。したがって、合議体は、この型番の製品の公開日を陳列時間と認定し、従来技術を証明することができると認定した。特許権者は、同じサイトで異なる製品を販売する可能性があると主張したが、反証を提供しなかった。合議体は、アマゾンサイトのリンク改正メカニズムについての理解に基づき、同じサイドで前後に異なる製品を販売することは高い蓋然性を持たないと考えた。

事例8)

無効請求人は、公証人の立ち合いで1688サイトから製品を購入した。また、同型製品が出願日前に取引されたことを証明できるwechatの記録を提出した。合議体は、業界の習慣によると、一般的に同じメーカーの同じ型番の製品構造は同じだと考えた。そのため、公証購入の製品の構造は、wechatの記録の同型製品と同じ構造であると認定された。したがって、公証購入の製品は出願日前に販売されたと認められた。

事例7)と8)では、出願日後の現物証拠を従来技術証拠とすることが可能になるカギは、合議体が同じ型番の製品の構造が同じることに高い蓋然性があると認めることであると思う。特許権者は、現物証拠と同じ型番の製品が出願日前に公開販売されないと主張しようと、有力な反証証拠を提出しなければならない。このような立証ルールは、無効請求人の公然実施に対する立証の難しさを軽減すると思う。


4.まとめ

上記の事例をまとめると、販売による公然実施の証拠チェーンは、一般的に、技術を含む証拠と公然実施の時間を証明できる証拠から構成される。製品の型番が対応すると、証拠間の関連性の要求を満たすことになる。また、公然実施の時間を証明できる証拠として、領収書などの書類、電子商取やソーシャルネットワーキングサイトのタイムスタンプなどの証拠を立証できる。実務では、公然実施の立証が厳しいであるが、証拠チェーンに何らの欠陥がないようにしなければならないという意味ではなく、積極的に立証することによって「高い蓋然性」という証明基準を満たしていれば、合議体の支持を得られることが多いと思う。