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特許無効手続における請求人の意思表示の確認
2025-12-15
作者:岳雪蘭

1.はじめ

中国『特許法』第 45条の規定に基づき、国務院特許行政部門が特許権の付与を公告した日以降、いかなる単位又は個人も、当該特許権の付与が本法の関連規定に合致しないと認める場合、国務院特許行政部門に対して当該特許権の無効を宣告するよう請求することができる。

中国では、特許無効審判を請求する主体が利害関係者に限定されておらず、あらゆる企業又は個人 が請求できるため、実務上、企業が身元を隠蔽して無関係の個人名義で特許無効審判を請求するケー スが少なくない。この手法は一般的に「藁人形戦略」と呼ばれている。

だがこの方式が広く用いられるようになると、他人の名義を悪用したり、委任状を偽造したりする事案 が頻発し、審査資源の浪費や行政秩序の混乱を招くだけでなく、特許権者の合法的権益を損なう可能 性も生じている。

このため、2025年の『特許審査指南』(以下、『審査指南』という)の改正では、無効手続に対して、無効 審判請求の提出は請求人の真実な意思表示に基づくものでなければならないという規定を追加した (2026年1月1日より正式施行)。

本稿は『審査指南』の関連改正内容を紹介し、典型的な事例にもとづいて、無効手続における請求人 の本意確認の核心的ポイントを分析し、実務上のアドバイスを提供する。

 

2.『審査指南』の関連改正内容の解説

無効審判手続における請求人の身元確認を規範し、虚偽の無効審判請求や悪意による無効審判請 求を取り締まるため、2025年に改正された『審査指南』では「無効審判請求の提出が請求人の真実な 意思表示に基づかない場合、当該無効審判請求は受理しない」と明確に定め、「意思表示の真実性」を 無効審判請求の受理要件として明確にした。改正後、国家知的財産権局は無効審判請求の受理時に、 請求人に対して当該無効審判請求がその本意に基づくことを証明する関連資料の提出を求める権限を 有する。有効な証明を提出できない場合、無効審判請求が受理されない可能性が生じる。

また、『審査指南』には「特許代理機関又は特許代理人が自分の名義で特許出願をし、又は特許権の 無効審判を請求する場合、『特許代理条例』に基づいて処理する」との規定も追加されていた。 この規 定は、『特許代理条例』第18条、第26条と連携し、特許代理機関や特許代理人が自身の名義で無効審判請求をすることを明確に禁止すると同時に、他人の名義を悪用したり、虚偽の委任書類を提出し たりする行為を手伝いすることも禁止している。当該規定に違反した場合、関連部門によって法に 基づく処罰(警告、罰金、代理業務の一時停止、資格の取消しなど)が科せられる。

今回の改正は依然として『特許法』第 45条の「いかなる単位又は個人も無効審判請求を提出で きる」との原則に従うとともに、更に「信義則の要求」を追加した。国家知的財産権局による改正内 容の解釈によれば、現在の実務には例えば他人の名義を悪用して無効審判請求を行うケースが存 在する。この場合、当該無効審判請求は当該「請求人」の本当の意思表示に基づいて提出されたも のではなく、多くの場合、請求書類への署名偽造、委任書類などの関連資料の偽造の行為が伴う。 このようなの行為は信義則に違反し、特許無効制度の公信力や市場競争秩序を損なうものである。 これでわかるように、今回の『審査指南』の関連改正の核心的な目標は以下の通りである。

① 請求人身分確認手続を規範し、他人名義の悪用、虚偽な無効請求、悪意による重複請求など 無効手続を濫用する行為を取り締まる。

② 審査基準を明確にし、審査機関が請求人の意思表示を確認するための明確な法的根拠を提 供する。

③ 合法的権益を保護し、特許権者が悪意な無効審判請求による迷惑をうけることを防ぐと同時 に、真の請求人の合法的な権利を保障する。

④ 代理機関の監督管理を強化し、特許代理行為を規範し、特許代理業界の秩序を維持する。

 

3.典型的な事例

『審査指南』の改正前に、請求人の意思表示の真実性が争点となる事例がすでに数件あった。当 時、明確な法規定がなかったため、国家知的財産権局や裁判所の取り扱いが統一していなかった。 無効決定が訴訟段階において手続き違法を理由に取消されるとしても、無効理由や先行技術はす でに無効決定により公開されたため、特許権者にとって取り返しのつかない損害となる。

事例 1:他人の名義を悪用して無効審判請求を行い、無効決定が取消された事案((2016)京 73行初6453号)

請求人路氏は B社のある特許に対して無効審判請求を提起した。国家知的財産権局は審査の結 果、当該特許を全部無効の決定を下した。B社は裁判所に行政訴訟を提起した。

訴訟において、裁判所が請求人路氏に訴訟書類を送達した後、路氏は声明書を提出し、当該事件に係る無効審判請求について全く知らないこと、代理人を委任したことも、いかなる無効審判請 求書類に署名したこともないこと、当該無効審判請求が自身の本意に基づくものではないことを明確に示した。

調査の結果、当該無効審判請求はある企業が特許代理機関と代理契約を締結し、勝手に路氏の 名義を借りて提出したもので、委任状も偽造されたものであると判明した。

裁判所は、無効審判請求の提出は必ず請求人の本当の意思表示に基づかなければならないと 認めた。本件において路氏は無効審判請求について知らされておらず、当該無効審判請求は路氏 の意思に反するもので、本意に基づく意思表示がない。本特許の無効審判請求の受理が不適法で あり、行政審査手続に違法があると判断し、最終的に無効審判決定を取消す判決を言い渡した。

事例2:特許代理機関及び特許代理人が他人の名義を借りて無効審判請求を提出し、この違法 行為に関する情報が関係機関に移送処理された事案 ((2022)最高法知行終716 号)

張氏は請求人として西安にある会社の駐車場管理システム特許に対して無効審判請求を提起し た。国家知的財産権局の審理の結果、係る特許権が全部無効と決定した。特許権者は不服を唱え、 提訴し、主張の1つは、張氏とその委任代理人である範氏とは親子関係であるため、張氏による無 効審判請求は本意に基づくものではなく、無効審判手続きは違法であることだった。

調査により、2015年12月から2021年2月にかけて、国家知的財産権局は少なくとも張氏を請 求人とする 25件の無効審判請求を受理した。これらの無効審判請求の代理機関はいずれも範氏 の所属事務所であり、一部の事件の代理人は範氏であった。当該25件の無効審判請求は機械、電 気など複数の分野を亘って、多種の装置に関わるもので、張氏がこのように幅広い分野の専門知識 や能力を有すること、又は無効宣告の結果と利害関係があることを証明する証拠は存在しなかっ た。

一審裁判所は、特許法に基づき何人も特許権の無効宣告を請求でき、張氏も自分の本意に基づ いて本件の無効審判請求を提起した声明書を提出したため、無効審判手続きは違法ではないと認 定したが、二審裁判所は異なる意見を示した。

二審裁判所は、特許法に基づき何人も利害関係の有無を問わず特許権の無効宣告を請求できる ものの、無効審判請求行為が『特許代理条例』第18条の規定に違反するか否かを審査する際、利 害関係の有無は重要な考慮要素となると認めた。いろいろな証拠に基づき、張氏が利害関係につ いて合理的な説明ができず、上記の無効審判請求は範氏及其び所属の特許代理機関が『特許代理 条例』第18条の規定を回避するため、範氏の母である張氏の名義で提起したものと認定でき、当 該行為は『特許代理条例』第18条の規定に実質的に違反している疑いがあると認定した。

『特許代理条例』第18条の規定に実質的に違反する行為は、合法的な形式を装って法規定を回 避する目的とするもので、特許代理秩序を混乱させ、さらに特許権無効宣告手続を濫用して不当な利益を図る可能性もあるため、法に基づいて規制する必要がある。無効審判手続き自体は当該行為により違法になることがないが、国務院特許行政部門によって法に基づき取調べる必要があり、 当該事件に係る情報を関係機関に移送すると、裁判所は判断した。

事例3:署名を偽造し、本当の意思表示がないことにより無効審判請求が却下された事案(無効 宣告請求審査決定書第589012号)

2025年1月、王氏は国家知的財産権局に対し、アストラゼネカ社の二件の抗がん剤特許に対す る無効審判請求を提出した。アストラゼネカ社は請求人の身元に対して強い疑義を提出し、王某は 1949年生まれの中国台湾住民で、医薬品業界の従事経歴や特許関連の経験が全くないにもかか わらず、同一時期に複数の原薬特許に対して無効審判請求を提起しており、他人に操作された「藁 人形」である可能性が高く、その身元情報が悪用されている疑いがあると指摘した。

審査段階で、王氏は台湾の公証機関を通じて『声明書』を提出し、無効審判請求は自分の本意に 基づくものであると主張したが、複数の無効審判請求を行った行為について合理的な説明をする ことができなかった。

アストラゼネカ社は自分の主張を裏付けるため、司法鑑定機関に委託し、委任状における王氏の 署名と後に提出された『声明書』における署名について筆跡鑑定を行わせた。司法鑑定意見書の結 論によれば、両者の署名の筆跡は同一人物のものではない可能性が高いとの結果が出た。

また、調査の結果、王氏は南京ある知的財産権コンサルティング有限公司の実質的な支配者と親 子関係にあり、同社は複数の個人を代理して原薬製薬企業に対して何回も無効審判請求を提起す ることがあり、「悪意による無効審判請求」の疑いがあることが判明した。

合議体は審査の結果、無効宣告手続の開始は必ず請求人の本意に基づかなければならないと 認めた。本件において『委任状』の署名が偽造されていることは、当該無効審判請求が王氏の本意 に基づかないことを十分に証明できる。たとえ王氏が事後に追認したとしても、それ以前に偽造文 書によって行政手続を開始した違法な性質を変えることはできず、当該行為は信義則に違反し、特 許行政管理制度を混乱させるものであると判断した。

最終的に合議体は「無効審判請求が請求人の本意に基づかない」を理由に、当該請求は受理要 件に合致しないと認定し、無効審判請求を却下した。

4.改正が実務運用に与える影響

『審査指南』の関連改正により、国家知的財産権局は無効審判請求を受理する際に、請求人の意 思表示の真実性を自発的に審査するようになり、これは、今までの実務に対して顕著な影響を与えて、無効請求人も特許権者も無効審判への対応方法を調整する必要がある。

① 無効審判請求人への影響

請求人は「意思表示の真実性」について証明責任を負うこととなり、無効審判請求のハードルが 引き上げられた。

個人の請求人については、無効審判請求書や書面による声明に署名したうえ、出頭して身元確認 の関連手続きを行うか、公証機関によって請求人の真の身元が確認され、本意の陳述が立会われ た公証書を提出する必要がある。声明書に「本人が自発的に今回の無効審判請求を提出し、これは 本意に基づく意思表示である」と明確に記載する必要がある。企業の請求人については、社印を押 印した書面による声明を提出し、無効審判請求が企業の本意に基づくものであることを明確にする 必要がある。

② 特許権者への影響

改正後の『審査指南』が施行された後、他人の名義を悪用して無効審判請求を提出する一部の ケースが抑制され、特許権者が悪意な無効審判請求に対抗し、自身の合法的利益を守ることに役 立っている。

無効審判請求が受理されたとしても、特許権者は、請求人の身元情報や委任状の真実性を確認 する必要があり、特に請求人が当該特許と利害関係を有するか否か、請求人のバクグラインドが当 該特許の技術分野と一致するか否か、同じ請求人によるほかの無効審判請求があったか否かなど を確認する必要がある。異常が発見された場合、速やかに合議体に異議を申し立てる。

 

5.むすび

特許無効手続における請求人の身元確認及び意思表示の真実性の確認は、無効宣告手続の厳 粛性を維持し、各当事者の合法的権益を保障する上で重要な鍵となる。今回の『審査指南』改正 は、従前のルール上の不足を補い、虚偽請求の取り締まり、無効審判手続の適正化、審査の質の向 上に多大な意義を有するものである。