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信義誠実原則の無効審判段階における適用
2025-10-09
作者:岳雪蘭

1.信義誠実原則の専利法及び専利法実施細則への導入

「信義誠実原則」は法律の基本原則として中国の民法典において昔から規定されている。一方、知的財産権分野では、この一般的な法律原則をどのように適用するか、審査の基準はどうなるのか、関連する法律責任はどうなるかは、民法典のような上位法だけでは対応できない。
近年、中国では産業の自主創新を呼びかける政策のもと、各分野で革新的なイノベーションが起きてくる状況で、専利出願件数が年々増かしている。その中、従来技術をコピーしたり、実験データを偽造したりする出願がしばしば現れ、イノベーションを促進し、真の発明を強く保護する環境がこのような悪性な出願行為に乱られる。
そのため、自主創新に相応しい環境を整える措置がたくさん講じられ、「信義誠実原則」を具体的に専利法に導入し、「信義誠実原則」に基づいて出願や権利行使時の不当行為を規制することは、そのなかの 1 つのである。
2021 年に施行された第 4 次改正専利法では、「専利出願及び専利権の行使は信義誠実の原則に従わなければならない」と明確に規定され (専利法第 20 条)、2024 年に施行された専利法実施細則第 11 条において、「出願は信義誠実の原則を遵守すべきであり、専利出願はいずれも真の発明・創造活動に基づくべきであって、虚偽又は欺瞞があってはならない」ことが明記されている。同日に施行された改正専利審査指南では、専利法実施細則第 11 条に関する審査は、専利出願の初歩審査、実体審査、複審、無効審判のいずれの段階に行われ、具体的な審査基準は、「専利出願行為を規範化する規定」に従うと規定される。
これにより、「信義誠実原則」の専利法における適用が具体的に定められる。
「専利出願行為を規範化する規定」によれば、以下の行為は「信義誠実原則」を反する非正常出願と認定される。
① 複数の専利出願に係る発明の内容が、明らかに同じであるか、又は異なる発明の特徴または要素の単純な組み合わせで形成される場合。
② 専利出願に係る発明の内容、実験データ若しくは技術効果の捏造、偽造、変造、又は従来技術若しくは従来設計の剽窃、単純な置換、寄せ集め等に類似する状況が存在する場合。
③ 専利出願に係るの発明の内容が、主にコンピュータ技術等を利用してランダムに生成される場合。
④ 専利出願に係る発明が技術改良、設計常識に明らかに適合せず、又は退歩し、言葉を飾り、保護範囲を不必要に減縮限定している場合。
⑤ 出願人が実際の研究開発活動なしに複数の専利を出願し、且つ合理的な解釈ができない場合。
⑥ 特定の団体、個人又は地域に実質的に関連する複数の専利を悪意で分散し、前後し又は異なる地域で出願している場合。
⑦ 不正の目的で専利出願権を譲渡し、譲受け、又は虚偽の発明者、考案者に変更した場合。
⑧ 信義誠実の原則に違反し、専利業務の正常な秩序を攪乱するその他の非正常な専利出願行為。
「信義誠実原則」の関する審査は、今まで主に初歩審査段階で審査官によって行われていたが、最近、「信義誠実原則」違反を無効理由とする無効審判請求も見られている。中国特許庁審判部は、いくつかの審決を通して、無効審判における「信義誠実原則」の審査基準を示している。

2. 信義誠実原則の無効審判段階における適用

① 第 569528 号無効決定
本件無効請求は、「亜硫酸金ナトリウムマンシアン金めっき液及びそのめっきプロセス」という特許にかかわる。
請求人は本件特許に限定された助剤が通用のものではなく、特許発明の内容が技術常識を反し、偽造されたものであると指摘し、本件特許は「信義誠実原則」を違反する非正常な出願である理由で、本件特許の無効を請求した。
請求人の証拠は、同じ特許権者の 3 件の特許と公知常識を証明する書籍である。
審理を経て、合議体は、以下のように認定した。
専利法実施細則第 11 条は、「信義誠実」の原則に従わない出願行為を制限する条文であり、無効宣告手続において、進歩性欠如や明細書の開示不足などの特許自体の欠陥を規制する専利法条文との区別を見極める必要があり、適切な法律条文に基づいて無効理由を提出すべきである。
専利法実施細則第 11 条に基づいて無効宣告請求を行う場合、権利の濫用を防ぎ、根拠のない争いを減らし、特許制度の公正性と効率を確保するため、請求人は十分な立証責任を負うよう、証拠に基づいて、その無効理由を具体的に説明すべきである。具体的に言えば、第一に、『特許出願行為の規範に関する規定』第 3 条に列挙された事項に基づいて、請求人は、対象特許の出願過程でどのような不正行為が存在したかを明確に特定し、証拠に基づいて「信義誠実原則」違反行為の存在を具体的に説明すべきである。さもなければ、その無効理由は考慮されない。第二に、請求人の立証は、不正行為が存在したことを十分に証明するレベルに達しなければならない。さもなければ、その無効宣告の理由は成立しない。
この審決により、「信義誠実」原則違反の無効理由について、他の無効理由と同じように、請求人の立証は、「高度の蓋然性」の基準を満たす必要があることを明確にした。
本件の場合、請求人の証拠は、「高度の蓋然性」基準を満たしていないため、無効理由が成立できないと、合議体は認定した。
② 第 583749 号無効決定
第 583749 号無効決定は、「全自動フレキシブル材料裁断設備に用いられる上下切断装置」という特許に関わる。特許出願の内容が既存技術を剽窃するものであるという理由で、特許が無効された事例である。
請求人は、対象特許に係る発明が出願日前に既に関連設備の販売によって公開されていたことを証明する証拠 A と、特許権者が本特許を出願する際に当該発明が従来技術であることを認識していたことを証明する証拠 B を提出した。
証拠 A には、請求人がある型番の裁断設備を販売する販売契約書一式および銀行口座の取引記録、ならびに販売された当該設備に対する証拠保全の公正証書が含まれている。公正証書には、当該設備の公証場所、型番、全体的な構造および部品の構造などが記録されている。
証拠 B には、張氏、唐氏と請求人会社との間で締結された雇用契約、ならびに特許権者の企業信用情報公示報告書が含まれている。
合議体は審理の結果、以下の事実を認定した。
証拠 A の公正証書で示された裁断設備は本件特許の既存技術を構成する。
証拠 B の雇用契約書には、張氏、唐氏の両名が請求人会社の現場エンジニアとして入社したこと、その職務内容、および入社時期等が記載されており、企業信用情報公示報告書にはこの両名が請求人会社を退職後、創始株主として特許権者会社の設立に関与したことが明記されている。これらの情報は明確で、請求人による証拠の出所および形式に関する説明も完全かつ明瞭である。
特許出願が「既存技術の剽窃」に該当するか否かの判断において、少なくとも以下二つの方面から検討すべきであると合議体は認定した。
第一に、特許発明の内容が既存技術の内容と同一であるか、または高度に類似しているかどうか。第二に、特許権者が特許を出願する際、発明の内容が既存技術であることを認識しながら、特許出願をしたかどうか。
本件において、請求人の証拠により、この 2 つの要素がすべて証明され、本件特許が、既存技術を剽窃するものであり、「信義誠実」原則を反すると認定された。
本件は、「信義誠実」原則が専利法に導入した以来初めて、この原則に基づいて特許の無効を認定した案件で、「信義誠実」原則違反の無効理由と、新規性欠如の無効理由が同時に存在する場合、法規定の立法趣旨、役割及び法律効果などの要素を考えて、優先的に専利法実施細則第 11 条を適用するとのルールを決めた。

3. まとめ

近年、特許出願の質向上の取り組みにより出願段階で信義誠実原則を反する非正常出願の取り締まりがかなり厳しくなっているが、信義誠実原則違反を無効理由にする事件がまだそれほど多くはない。また、すでに公開された何件の無効決定の内容からみると、合議体は専利法実施細則第 11 条の適用について慎重な姿勢を示し、請求人の立証責任を厳しく求めている。
初歩審査や実体審査段階で、「信義誠実」原則違反で非正常出願であるか否かの審査は、審査官より行われ、出願の内容に基づいて判断すれば良く、具体的な証拠を挙げることがあまりないが、無効審判は、当事者同士の戦いであり、請求人側は、かかる特許が「信義誠実」原則違反したものであることを十分に証明しなければならない。
また、「信義誠実」原則は原則として決められるが、無効理由として主張する場合、「専利出願行為を規範化する規定」に定められる 8 種の具体的な行為のどちらに該当するかを明確に特定し、それなりの証拠を提出する必要がある。
その中で、特許書類の記載だけで判明できず、特許権者の出願時の主観的な意図も考慮しなければならない行為があり、請求人として立証する場合、客観的な事実と、主観的な意図の両面で証拠を準備する必要がある。
また、特許権者として、日常的な研究開発記録をきちんと保管することによって、特許出願は本当の発明に基づくものであることを証明でき、このような無効理由が指摘される場合、十分に対応できる。