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特許侵害警告の適用
2025-06-09
作者:汪俊威、劉暁迪

特許権者が私力救済を通じて権利を行使する重要な手段の一つとして、被疑侵害者に特許侵害警告状を送る方式はますます特許権者に採用されている。特許侵害警告状の発送は司法又は行政上の法定手続の制約を受けないため、権利行使コストが低く、効率が高いという優位性があるが、軽率に警告状を発送することも特許権者に多くの不利な影響をもたらす。本文では、具体的な案件に基づいて、実務上の問題点と警告状を送信する際の注意事項を分析しよう。


1. 権利侵害警告の形式
検索した案件に基づき、権利侵害警告を構成するか否かを認定するには、被警告者又は利害関係者の利益が不確定な状態にあるか否かを根拠とすべきであるため、権利侵害警告の形式は限定されず、書面による明示的な警告であってもよく、全文を読んで初めて判断できる暗黙の警告であってもよい。また、実務上、権利者が特許行政部門に特許侵害行為の摘発や、係争特許に関連する営業秘密侵害訴訟等の提起も、権利者が権利侵害警告を発送したとみなす可能性がある。
例えば (2021) 最高法知民終 1122 号案件において、陳氏が発行した『業務連絡書簡』が係争特許権に基づく権利侵害警告を構成するか否かのことについて、第一審裁判所は、陳氏が安徽 Z 社に発行した『業務連絡書簡』において、X 社を被疑侵害者とし、X 社が油類製品を生産するために採用した生産システムはすべて陳氏が設計したものであることを明確に指摘し、この生産システムに関する技術内容は係争特許に具体的に記載されていると声明した。この事実より、陳氏が係争特許について明確な特許侵害警告を発送しており、X 社は利害関係者として本案の非侵害確認訴訟を提起する権利を有すると認定した。
第二審裁判所はさらに、実務において、権利者が発する権利侵害警告は権利侵害を明示する意思表示であってもよく、全文内容又は文脈に基づいて総合的な判断であってもよいと指摘した。権利侵害警告を構成するか否かの判定は、被警告者又は利害関係者の利益が不確定状態にあるか否かを根拠としなければならない。陳氏は、自分が権利侵害を主張するのではなく事実を述べるだけであると抗弁したが、書簡において具体的な特許があげられ、その特許に基づいて購入行為の停止を要求したことは、X 社の行為の合法性に疑問を抱かせるのに十分であり、権利侵害警告を構成する。


2. 権利侵害警告の対象
特許権者が権利侵害製品の一部の生産者、販売者、使用者のみに対して特許行政部門に特許侵害紛争処理請求を提起した場合、行政処理手続に参加していない生産者、販売者、使用者に対しても権利侵害警告を構成する。
(2019) 最高法知民終 5 号案件において、S 社は特許侵害を理由に機器使用者 G 社に対して行政部門に摘発したが、機器生産者 V 社を直接対象としなかった。第一審裁判所は、S 社の摘発は特許法上の「権利侵害警告」を構成しないと判断した。その理由は、係る紛争がすでに行政手続に入っており、S 社が行政手続の進行を妨害していることを示す証拠がなく、V 社は行政手続を通じて権利侵害の有無を確認することができるということであった。第二審裁判所は当該認定を否定し、S 社の行政摘発は V 社を被請求人として直接明記していないが、実質的には V 社に対して権利侵害警告を構成していると指摘した。第一に、V 社は被疑侵害品である設備の生産者として、その製品が権利侵害と認定される可能性があり、市場販売が直接影響を受けることを必然的に予見できる。第二に、行政手続で V 社を被請求人に指定していないため、行政手続きを通じて自分の権利を主張することができず、その権益が不確定な状況に陥ること。第三に、V 社が権利非侵害確認訴訟を提起することは、司法手続きを通じて市場を安定させ、法律リスクを解消することを目的としたので、必要性と正当性があること。したがって、権利侵害警告の認定は、警告行為が相手方の利益に与える実質的な影響に基づくべきであり、形式的要件だけを考えるのではない。権利者が下流側の使用者に対してのみ行政摘発をしたとしても、客観的に生産者を侵害告発に直面する不確実な状況に陥らせる場合、生産者に対する警告を構成すると認定することができる。
上記 (2021) 最高法知民終 1122 号案件も同様の考慮に基づいて、受信者ではない X 社が機器の製造者として権利侵害警告の利害関係者となり、権利非侵害確認訴訟を提起する権利を有すると認定した。


3. 損害賠償の確定における権利侵害警告状の役割
実務において、裁判所は特許侵害警告状を考慮要素の一つとして賠償金額を確定することができる。
(2020) 最高法知民終 1089 号案件において、P 社は 2011~2012 年の間にピラティスフィットネスに使用されたトレーニングベッドについて Y 社及びその株主に対して特許権主張及び権利侵害警告を提出したことがある。その後、各当事者は 2012 年に和解書に署名し、Y 社は権利侵害を行わないことを約束した。しかし、Y 社は 2018~2019 年の間、侵害品の製造、販売を続けていた。最高裁判所は Y 社に明らかな主観的故意があると認定し、この主観的過失を賠償金額を確定する際重要な考慮要素とした。
(2022) 最高法知民終 2484 号案件において、D 社は弁護士に委託して EMS を通じて Z 社に特許侵害警告状を郵送し、Z 社に侵害行為の停止を求めた。第一審裁判所は、「弁護士に依頼して弁護士書簡を発送する」ことを考慮要素の一つとして賠償額を確定した。最高裁判所は第一審裁判所の判決に不当がないと判断し、一審判決を維持した。
『知的財産権侵害民事案件の審理における懲罰的賠償適用に関する最高人民裁判所の解釈』第 3 条の規定に基づき、侵害者が権利侵害警告を受けた後も引き続き権利侵害行為を実施した場合、権利侵害の故意があると認定されることができ、権利者は懲罰的賠償を主張することができる。権利者が警告の発送に基づいて懲罰的賠償の適用を主張する場合、侵害者が特許侵害警告を受けた後も権利侵害行為を実施していることを立証する必要がある。原告は一定の挙証責任を負う必要があるため、既存の案件によれば、特許侵害警告だけに基づいて懲罰的賠償の適用を主張することに成功した案件はまだ見られない。
(2022) 最高法知民終 1697 号案件において、乙社は、甲社が弁護士書簡の警告及び提訴を受けた後も、未だに関連の製品リンクが削除されていなく、権利侵害の主観的故意があると主張し、第一審裁判所に法定賠償と懲罰的賠償を同時に適用して賠償金額を計算するよう請求した。第一審裁判所は、乙社は、甲社が権利侵害警告を受けた後も侵害品を製造、販売していることを立証していないため、既存の証拠だけで甲社に権利侵害の悪意があることを証明するには不十分であり、製品リンクから統計される販売量及び販売金額がいずれも侵害品であることを証明するにも不十分であり、乙社が主張した本件に懲罰的賠償を適用する根拠が不十分であるので、支持しないと認定した。第二審において、最高裁判所は第一審裁判所の上述認定を支持した。


4. 権利侵害警告が合法的な出所の抗弁に与える影響
権利侵害警告を受けた後も侵害行為を続ける行為は主観的悪意があるとみなされるため、権利侵害警告を受けた後、侵害者は、警告を受けた後の侵害品の使用、販売の申し出、販売行為に善意があると主張できず、合法的出所抗弁を主張できない可能性がある。
(2023) 最高法民再 10 号案件において、甲社が被疑侵害品について合法的出所抗弁を主張した。これに対し、裁判所は、甲社が侵害品が乙社に由来することを立証しており、警告状を受け取る前に甲社が販売した歯ブラシ製品内部のモーター部品が他人の特許権を侵害していることを知っていた、又は知っているべきであることを証明する証拠がないため、甲社が警告状を受け取る前の合法的出所抗弁が成立したと判断した。しかし、甲社は警告状を受けた後も侵害品を販売し続けており、主観的に過失があるため、甲社の警告状を受けた後の行為について、合法的出所抗弁は成立することができない。


5. 非侵害確認訴訟
『特許権侵害紛争案件の審理における法律の適用に関する若干の問題に関する最高裁判所の解釈』第 18 条及び『知的財産権民事訴訟の証拠に関する最高裁判所の若干の規定』第 5 条の規定に基づき、権利侵害警告を受けた後、被警告者は書面で警告者に訴訟を提起するよう催告することができ、警告者が合理的な期限内に訴訟を提起ない場合、被警告者は非侵害確認訴訟を提起することができる。
(2021) 最高法知民終 2460 号案件において、最高裁判所は、W 等の 3 社が知的財産権非侵害確認訴訟を提起する権利があるか否かをめぐって、3 つの面から認定を下した。
(1) 権利侵害警告の成立:G 社は別件において、W 社等の 3 社等が出願した 25 件の特許について、その営業秘密を侵害した疑いがあると明確に告発した。最高裁判所は、上述の告発は W 社等の 3 社を法的状態が不安に陥られ、これら 3 社の正常な経営に影響を与えたため、G 社から権利侵害警告を受けたと認定すべきである。
(2) 書面による催告義務の履行:W 等 3 社はすでに G 社に書面による催告書簡を発送し、関連特許について侵害訴訟を提起するよう要求しており、G 社もすでに当該書簡を受領した。即ち、W 等 3 社が G 社に訴権行使の催告を出した。
(3) 合理的期間の認定:最高人民裁判所は、「合理的期間」は案件の複雑さ、訴訟の準備期間等を踏まえて総合的に判断する必要があり、「訴訟提起」とは権利侵害訴訟に限らず、権利確定訴訟等紛争を実質的に解決できる訴訟も含むと指摘した。G 社は権利侵害訴訟を取り下げたが、係争特許又は特許出願に対して権利帰属確認訴訟を提起したため (提訴時期が催告書簡よりも早い)、合理的な期限内に訴訟を提起したものとみなす。起訴していない特許出願については、G 社が侵害警告を取り下げたと推定する。
このように、G 社は合理的な期間内に訴訟を提起したため、W 社等 3 社の非侵害確認訴訟は法定の訴訟条件に合致しておらず、一審裁判所の訴えを却下する裁定を維持すべきであると、最高裁が認定した。
非侵害確認訴訟については、最高裁判所の見解によれば、「訴訟提起」の判断については、双方の紛争を実質的に解決し、被警告者の不安定な状態を解消することができるすべての訴訟を含むべきである。「訴訟を提起する時期」については、「特許権侵害紛争案件の審理における法律の応用に関する若干の問題に関する最高裁判所の解釈」では、権利者は当該書面催告を受けた日から 1 ヶ月以内又は書面催告を発行した日から 2 ヶ月以内に訴訟を提起すると規定しているが、「知的財産権民事訴訟の証拠に関する最高人民裁判所の若干規定」では、権利者は合理的な期限内に訴訟を提起しなければならないと規定している。したがって、非侵害確認訴訟については、旧法より新法が優先なので、権利者が合理的な期間内に訴訟を提起すればよいと考えている。


6. 権利侵害警告の濫用の認定
特許権侵害警告に虚偽な情報又は誤解を招く情報があり、権利侵害の事実が成立しにくいことを明らかに知っているにもかかわらず、権利者は権利侵害警告を発送し、かつその発送により相手方の商業信用又は商業利益を損なう場合、商業中傷を構成しやすい。
(2022) 最高法知民終 2586 号案件では、ある材料会社が顧客に「Z 社の製品は特許侵害の疑いがあるため特許権侵害訴訟を提起した」と提示書簡を発送しが、裁判所はこの発送行為が商業中傷に該当すると認定した。その理由は以下の 3 点にある。
第一に、当該会社は Z 社の侵害行為を証明する十分な証拠がない状況で、誘導方式を通じて不当な証拠を収集し、事実根拠が足りない訴訟を提起し、その提示書簡における「特許侵害の疑いがある」という表現は虚偽性があり、誤解を招くものである。
第二に、その書簡発送行為に主観的悪意が明らかであり、証拠収集方法が違法であり、権利侵害主張が成立しにくいことを明らかに知りながらも、関連顧客に書簡を発送し、Z 社の製品が侵害品であることを示唆しており、当該行為は慎重ではなく、不正な手段により競争相手を威嚇する意図がある。
第三に、当該行為は客観的に Z 社の商業信用と利益を損なっており、関連顧客は情報の真偽を確認できないため、潜在的な紛争を回避するために Z 社との取引を終了し、その市場を損なう可能性がある。
従って、当該材料会社の行為は『不正競争防止法』第 11 条の規定を違反し、商業中傷であると認定された。


7. 権利侵害警告の発送に関する注意事項
警告状は迅速かつ低コストで特許権者の合法的権益を守ることができるが、その内容は司法又は行政機関の判定を受けていないため、誤って発送されたら、相手方の合法的利益に損害を与えるリスクがある。したがって、侵害者の製品が当方の特許権を侵害していることを確信した後、警告状を発送できるが、十分な事実根拠がなく、軽率に警告状を発送すれば、慎重注意義務を果たさなかったと認定され、商業中傷又はその他の不正競争行為を構成するリスクがある。そのため、警告状には、双方当事者の情報、当方の特許情報、侵害事実の陳述、関連する法的根拠、権利侵害分析及び明確な要求等が明確に記載したほうがよい。また、警告状を発送する前に、被疑侵害者の権利侵害証拠に対する証拠収集や公証手続きを行い、侵害証拠を予め固定する必要がある。これにより、被疑侵害者が警告状を受けた後に関連侵害証拠を廃棄又は隠匿することを防止できる。