1. 初めに
2022 年 12 月、中国国家知識産権局 (CNIPA) は「第 35 類の役務に係る商標の登録出願と使用に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という) を公表した。
このガイドラインは、市場主体が第 35 類を「万能な商標」と誤解する認識を是正することを目指し、第 35 類の役務項目の意味合いと範囲を明確にした。
しかし、国家知識産権局商標局が公開したデータ (表 1) によると、国内出願人による第 35 類商標出願の割合は減少傾向にあるものの、依然として絶対的な優位性を保ち、全区分において「人気トップ」を維持している。
一方、「摩知輪」が公開した三年不使用取消不服審判の審決を基に統計した結果 (表 2) によれば、第 35 類は「人気トップ」であると同時に、不使用で取消されたケースの割合も非常に高い。
この現象から以下の 2 点が反映できると考えられる。
第一に、市場主体は依然として第 35 類の役務項目の本質を誤解していること。
第二に、現行の商標制度の枠組みでは、特に小売サービスに十分な保護を実現するのが難しく、制度的な対応が必要であること。


2. 中国における第 35 類の役務項目の範囲及び他国との違い
ガイドラインは、第 35 類の役務には「他人のために提供する」という中核的特徴を有すると明確に規定し、即ちサービス行為は第三者利益を目的とするものであり、権利者自身の経営需要ではないことを強調している。
特に「商品販売行為はサービスに該当しない」と明記されており、これは世界の主要法域との間に顕著な差異がある。
国際商標協会 (INTA) が 2020 年 4 月 1 日に発表した『ニース分類――第 35 類小売・卸売サービス:地域別実践と審査基準の研究』[2] によると、51 の法域を対象とした調査において、「商品販売」サービスの受容性について以下の 3 つの分類が存在する。
(1) 無条件で「商品販売」をサービス分類として受容。
約 55% の法域が「商品販売」または「[第 1~34 類の商品] の販売」を明確なサービス分類として扱い、追加説明を必要としない。
代表国:オーストラリア、インドネシア等。
(2)「商品販売」をサービス分類から完全に排除。
約 18% の法域は「商品販売」が他人利益のためのサービスではないとして分類対象外とする。
代表国:中国等。
(3) 条件付きで「商品販売」をサービス分類として受容。
約 26% の法域は「商品販売」を条件付きで受容し、追加説明や単純販売行為の除外を求める。
代表法域:欧州連合知的財産庁 (EUIPO)、日本等。
CNIPA は、一般商品 (医薬品・医療用品を除く) の小売・卸売サービスを長年にわたり受容しておらず、ガイドラインではこの点をさらに強調し、「他人のための販売促進サービス」の解釈を明確化した。
即ち、「他人のための販売促進サービス」とは、他者の商品またはサービスの市場需要拡大のための具体的な提案、企画、コンサルティングなどを指し、自社商品の小売・卸売や他者商品の転売による利益取得 (単純な販売行為) は含まれない。
3. 適用上の違い
(1) 商標行政案件の審理において
ガイドラインの公表と伴に、商標の権利付与権利確定に係る行政案件、特に登録商標三年不使用取消審判に係る案件中、国家知識産権局も審決取消訴訟を管轄する裁判所も第 35 類の役務内容 (特に以前よく議論された「他人のための販売促進サービス」) に対する認識がガイドラインと一致するようになった。
例として、2017 年の「聯華 LIANHUA 及図」商標不使用取消審判事件、2021 年の「MARUI」商標不使用取消審決に対する取消訴訟事件、2022 年の「好医生」商標不使用取消審判に関する控訴請求事件がある。
いずれも、小売・卸売による直接販売や転売利益は「他人のための販売促進サービス」に含まれないとの判断が示された。
(2) 商標権侵害訴訟において
一方、商標権侵害訴訟では、各地の裁判所は「小売サービス」と「他人のために販売を促進するサービス」に対する認識は、また商標の権利付与・権利確定に係る行政案件における認識とは一致していない。
多くの事件では、小売企業の業務が第 35 類サービスに該当すると認定されている。
2021 年に福建省裁判所の知的財産権司法保護十大事例に選ばれた「百果園」事件を例として、裁判所は次のように述べた。
中国の『類似商品・サービス区分表』は第 35 類の役務項目が小売企業に適用されない旨を規定しているものの、実際のビジネス実務では、大多数の小売業者が第 35 類の「他人のための販売促進」項目で商標登録を出願し、当該登録商標をデパートやスーパーマーケットの運営に使用している。
こうした企業の使用行為を通じて、デパートやスーパーマーケットが提供するサービスが「他人のための販売促進」と同一類別に属するという認識が、関連消費者層に定着している。
したがって、商品の小売サービスは第 35 類「他人のための販売促進」に該当すると認定すべきである。
4. まとめ (Q&A)
小売サービスの保護において、中国が現在多くの法域と大きく異なるため、実務において外国企業や代理機関より第 35 類の商標出願に関する疑問が常に寄せられる。
前述の内容を踏まえ、以下のようにまとめる。
Q1: 中国の商標登録出願で卸売・小売サービスを指定できるか?
A1: 現在、薬品・医療用品の小売または卸売サービスを除き、他の商品の小売・卸売サービスは一切受け付けられない。
中国を指定したマドリッド国際登録出願に卸売・小売サービスが含まれる場合、暫定的な拒絶理由となる。
Q2: 自社商品を中国の代理店又は EC プラットフォームを通じて直接販売する実体企業の場合、第 35 類に商標登録すべきか?
A2: 自社製品を販売する企業は、まずその商品において商標登録を優先すべきである。
現行の実務では、商品商標の権利範囲は、卸売・小売などあらゆる販売形態、及び製品販売促進を目的とした広告宣伝・商業活動全般を含む。
第 35 類の登録は必須ではない。
ただし、第 35 類での防御登録は他者の先取り登録 (商標スクワッティング) による混同リスクを軽減し得る。
ただし、連続して三年間不使用で登録が取消されるリスクも高い。
Q3: 小売企業として、中国で自社商標をどのように保護すべきか?
A3: スーパーマーケットなどの総合小売企業や単一商品小売企業の場合、現行制度では適切なサービス項目における商標登録が難しい。
ただし、商標権侵害訴訟の実務を考えれば、第 35 類 (特に「他人のための販売促進サービス」項目) での登録が依然として重要である。
Q4: 日本の規定では、特定商品の小売サービスにおいて登録を取得すると、当該商品における同一・類似商標の登録が阻止できる。
中国にも同様の制度はあるか?
A4: 中国の商品・サービス分類表によって、第 35 類の役務項目と第 1~34 類の商品とのクロスサーチが存在しない。
現在受け入れられている薬品・医療用品の小売・卸売サービスでも、薬品・医療用品とは類似商品とみなされない。
したがって、第 35 類での登録は、他者が他の商品区分における商標登録を当然には阻止できない。
参考文献
[1] 国家知識産権局商標局。第 35 類サービス商標の申請登録及び使用に関するガイドライン. (2022-12-07) [2025-04-11]. https://www.cnipa.gov.cn/art/2022/12/7/art_66_180686.html
[2] 国際商標協会. Nice Classification of Goods and Services――Retail and Wholesale Services in Class 35: A Study of Different Local Practices and Examination Standards. (2020-04-01) [2025-04-11]. https://www.inta.org/wp-content/uploads/public-files/advocacy/committee-reports/INTA_Nice_Classification_Retail_Services_Report_040120.pdf