ドイツ WAGO 管理有限責任会社(以下「WAGO 社」)は世界的に有名な端子台メーカーであり、同社独自開発のバネ接続技術は電気接続分野に大きな技術革新をもたらしました。1951 年の創業以来、「安全と信頼」を企業理念の軸に据え、従来のねじ式接続に代わる高性能な「バネ接続」技術を磨き上げてきました。本技術の特長は、挿入された電線に安定した挟持力を持続的に作用させるとともに、専門技能を持たない作業者でも簡便に施工できる点にあります。WAGO 製品は優れた性能から、電力、製造、照明、鉄道、船舶、自動車といった多業界で幅広く活用されています。さらに一部製品は従来の手作業による電線接続に代わるソリューションとして、住宅リフォーム分野でも普及が進んでいます。WAGO 社は中国において関連特許を出願し、自身の知的財産権を法的に保護しています。
WAGO 製品の市場における高い人気と模倣容易性から、多数の模倣事業者が「WAGO 代替品」を標榜する製品を相次いで市場投入し、WAGO 社の特許権を侵害する事案が多発しています。当事務所は WAGO 社の代理人として、中国国内における長期的な特許権侵害訴訟を推進してまいりました。WAGO 社知財部門と緊密に連携し、規模の大小を問わず侵害事業者を相手取り複数の勝訴事例を積み上げ、WAGO 特許に対する侵害行為の発生件数と規模を効果的に抑止し、クライアントの正当な権益を守る成果を上げてきました。
このたび受理した控訴審判決の一つとして、WAGO 社電気接続端子特許に基づき提起された特許侵害訴訟において全面勝訴が確定しました。本事案は請求項解釈、侵害責任の帰属、損害賠償額の認定といった複数の重要論点を内包する極めて典型的な事例です。当事務所は本案訴訟代理人として、事案における請求項解釈、侵害責任の帰属、損害賠償認定に関する対応戦略を紹介いたします。
本事案は 4 年間にわたる特許侵害紛争であり、侵害者は複数シリーズにわたる多種の製品で係争特許の権利を侵害していました。侵害製品の証拠収集に多大な労力を要したほか、その後も無効審判(特許有効性維持)、一審、控訴審と手続きが継続し、最終的に最高人民法院による控訴審判決において、一審裁判所の誤った事実認定が是正され、特許権者の主張の多くが支持されました。また請求項解釈、侵害責任の帰属などの論点に関し指導的な判断が示され、権利者が権利を適法かつ合理的に主張するための明確な実務指針が示されています。
請求項解釈
一審手続きにおいて裁判所は、侵害者の L6501、L4005 の 2 シリーズ複数製品は係争特許請求項 1~5 の技術的範囲に属するものの、従属請求項 6 の範囲には該当しないと認定し、請求項 6 に係る侵害成立を否定しました。
係争特許請求項 6 には「板バネに、それぞれ電線接続クリップの外側へ向かう摺動補助斜面(助滑斜面)を形成し、当該摺動補助斜面同士が漏斗状に配置される」旨が規定されています。一審裁判所は、特許明細書段落 0042 を根拠に、本特許における摺動補助斜面はボタンと協働して板バネを押し広げる構成であるのに対し、被疑侵害製品にはボタンが存在しないと判断しました。そのため被疑侵害製品に備わる二つの垂直突起面は摺動補助機能を果たし得ず「摺動補助斜面」に該当しないとし、被疑侵害製品に請求項 6 に記載の技術的特徴が具備されていないと認定しました。
当事務所の見解として、一審裁判所の認定は請求項を不当に限定解釈するものであります。請求項に記載されておらず明細書の実施例のみに登場する構成要素「ボタン」を請求項の保護範囲に読み込んだ結果、上記 2 シリーズの侵害製品が請求項の保護範囲外と判断されたものと考えます。関連法令の定めによると、特許権の保護範囲は請求項の記載を基準とし、明細書および図面は請求項解釈の補助資料として利用可能であるものの、明細書・図面に記載された具体的実施例をもって請求項の保護範囲を制限することは許されません。係争特許請求項 6 には「摺動補助斜面」のみ規定されており、実施例の「ボタン」は摺動補助斜面と必須的に協働する構成要件ではなく、これをもって請求項を限定解釈すべきではないと主張しました。
控訴審裁判所は当事務所の主張を採用し、請求項 6 を限定的に解釈した一審判決の誤りを是正しました。裁判所は一審の「摺動補助斜面とボタンが協働し板バネを押し広げる」という理解が実質的に請求項 6 の技術的範囲を狭めるものであると判断しました。係争特許請求項 6 は「板バネに電線接続クリップ外側に向かう摺動補助斜面を形成する」と定めるにとどまり、摺動補助斜面と連携するボタンの設置を要件としておらず、ボタンとの協働により摺動補助機能を実現することを暗黙的に要求していないとの判断が示されました。
民事侵害訴訟と無効審判における請求項解釈の整合性
本事案の係争特許に対し、侵害訴訟一審手続き中に侵害者より無効審判が請求されました。特許侵害訴訟と併存する無効審判手続きにおいて請求項を解釈する際には、特許権の有効性審査と被疑製品の権利範囲該当性判断の双方を均衡させる必要があります。
本紛争の争点の一つは、被疑侵害製品が係争特許の保護範囲に属するか、すなわち全面一致原則が充足されるか否かです。一方、無効審判における無効理由の一つは明細書によるサポート要件の充足性でした。被告は明らかに侵害訴訟と無効審判の両手を活用した挟撃戦術を採用していました。すなわち無効手続きにおいて権利者に特定技術特徴に関する解釈を迫り、その解釈を前提に侵害対比において被疑製品に当該特徴が存在しないと主張し、訴訟上の優位を得ようとするものです。
当事務所は被告の法的手続きを利用した真の狙いを的確に把握し、豊富な訴訟実務経験と深い技術知識を活用し、特許権の有効性維持と侵害訴訟の双方を見据えた戦略を構築し、二つの手続きの連携を適切に調整しました。無効審判と民事訴訟のいずれの局面においても、裁判官・審査官に対し根拠に基づく技術説明と法的解釈を提示し、双方の手続きで勝訴を実現しました。
以上から明らかなように、特許侵害紛争では特許無効審判が並行して提起される事例が少なくなく、原告と被告は「特許権の有効性」「被疑製品の権利範囲該当性」の二つの軸で攻防を展開します。特許権者である原告は最終的な勝訴を目標とし、技術面、法律面、応訴戦略の多角度から方針を定め、無効手続きと民事訴訟の双方を一体的に考慮しなければなりません。請求項解釈にあたっては、特許の安定性を確保すると同時に、特許権が侵害製品をカバーできるかを見極め、安定的な特許権を基礎として侵害差止めを実現する道筋を構築する必要があります。
侵害責任の帰属
控訴審判決における侵害責任に関する論点は大きく二点、被疑侵害製品製造用の専用金型・設備の廃棄、ならびに経済的損失と権利行使にかかる合理的費用の賠償に分かれます。
当事務所が取り扱った多数の特許侵害訴訟において、製造用治具・設備の証拠確保は極めて困難な課題となっています。知的財産権侵害事案における証拠収集の難しさは権利者共通の課題です。国家知識産権局が公表した『2022 年中国特許調査データ報告』によると、5 割を超える権利者が、侵害事実の立証、侵害者の故意性の立証、実損害額の確定、侵害者の侵害利益の算出のいずれかに困難または多大な困難を伴うと回答しています [1]。その主な要因として、権利基礎資料は権利者側が保有する一方、侵害事実・侵害利益に関する証拠は大半が侵害者の管理下に置かれている点が挙げられます。侵害者は訴訟において権利者と対立する立場にあり、権利者が証拠を入手することに協力する可能性は低い状況です。
加えて特許侵害関連証拠は秘匿性が高い特性があります。例えば侵害製品の生産行為は流通段階ではなく製造現場で実施され、警戒心の高い侵害者は証拠収集への対抗手段を講じるのが一般的です。そのため専用金型、生産設備、在庫製品、侵害者の会計帳簿といった重要情報は公的経路から入手することが難しいのが実情です。
また一部裁判所においては、「金型の廃棄」は既存の侵害差止請求の射程内に含まれ、独立の請求趣旨とすべきではないとの考え方が存在します。しかし金型の廃棄が実現されなければ、侵害者が侵害製品を生産し続ける能力を根本的に遮断することは困難です。製品生産が金型に強く依存する事案において、金型廃棄の請求は非常に高い実務的意義を持ちます。
本事案において、権利者が主張する被疑製品製造用専用金型・設備の廃棄につき、一審裁判所は原告が被告側に在庫製品および専用金型・設備が存在することを立証できないとして請求を認容しませんでした。一方控訴審裁判所は、信義則に照らし、専用金型・設備の廃棄は侵害停止義務に当然に包含されると判断しました。これにより控訴審は、専用金型・設備の廃棄が侵害者の負う侵害停止義務であることを明確にし、権利者の立証負担を一定程度緩和しました。さらに重要な点として、最高人民法院は本案において「金型廃棄」が独立の請求事項かつ判決に盛り込むべき法的効果を持つことを明示しました。
損害賠償額の認定
経済的損失ならびに権利行使に伴う合理的費用の賠償に関し、控訴審裁判所は提出された証拠をもとに複数の要素を総合考慮しました。具体的には、係争特許が発明特許で革新性が高いこと、被疑侵害製品が 15 型式に及び種類が多岐にわたること、侵害者が製造・販売・販売申出行為を実施し複数のネットプラットフォームで展開していること、被疑製品の販売単価と利益状況などを勘案し、一審より高い金額で権利者の経済損失賠償を裁量認定しました。また権利行使にかかる合理的費用については、権利者が提出した海外法律事務所の請求書および支払証憑を証拠として認めました。
当事務所が取り扱った多数の外国当事者関連侵害訴訟では、海外法律事務所と外国依頼者間の支払証憑が裁判所に認められにくい傾向が見られました。その背景として、海外の商慣習に基づき電子メール等で業務合意を形成し個別の正式契約書を作成せず、請求書ベースで費用請求が行われるケースが多いことが挙げられます。『民法典』第 469 条の規定によると、電子メール、電子データ交換などの手段により内容を有形的に表示し随時参照可能なデータ電文は書面形式とみなされます。この規定に照らし、依頼者と法律事務所との間の委任契約は成立していると評価すべきです。加えて権利者が費用の支払事実を証拠立証できる場合、相応の権利行使費用が発生したと認定する方向が妥当です。
本案控訴審において裁判所は WAGO 社が提出した請求書および支払証憑を採用し、弁護士費用、公証費用、調査費用の必要性・合理性を勘案し、権利行使の合理的費用に関する賠償額を増額して裁量認定しました。最高人民法院の本判決は、正式な契約書や領収書が整いにくい外国関連事案における弁護士費用の認定基準に関し、指導的な先例的意義を有しています。