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ドイツ展示会のIP取締リスク及びその対応策

作者:侯宇 | 更新しました:2016-07-28 | ビュー:

ドイツ展示会は今まで100年余りの歴史を持っています。今のドイツは「世界第一」の展示会強国として、全世界2/3の業種における最先端技術の展示会を開催しています。近年、中国経済の快速な発展と「海外へ出る」戦略の実施の加速に伴って、輸出業務を求めるためにドイツ展示会の出展者になる中国企業がますます多くなっていますが、ドイツ展示会でのIP取締事件に巻き込まれた中国企業も増えいます。ここにドイツ展示会のIP取締リスク及びその対応策を紹介させていただきます。

 

 一、侵害出展者に対するドイツの取締ルートは主に以下3つがある。

1)行政ルート 

つまり、税関が出展品を押収する。その国際法の根拠はTRIPS協議§51~60条及びEU理事会条例EC1383/2003であり、ドイツ法律の根拠は特許法、商標法、著作権法及び不正競争防止法等である。権利者が税関へ押収請求を提出する時に、責任負担に関する声明だけを提出すれば結構で、法執行の費用や保証金を納付する必要がないから、手続きとしては簡単である。EC1383/2003第11条の規定により、被疑侵害出展品が押収された後、権利者は該出展品に対する「簡易化した処分プロセス」の実行を税関に請求することもできる。


2)民事ルート

つまり、裁判所が仮処分をする。その国際法の根拠はTRIPS協議§44~50条及びEU2004/48/ EC号指令であり、ドイツ法律の根拠は特許法、商標法、著作権法、不正競争防止法及び民事訴訟法等である。通常、仮処分請求の要件は下記2つある。a、侵害可能性の説明の信憑性が高い、b、緊急事態である。仮処分の請求には、訴訟費用を納付する必要がなく、担保を提供する必要もない。しかも、裁判所は被請求人に通知せず、素早く仮処分請求を許可することが多い(所要時間は大体1~2日であるが、4~6時間の場合もある)。また、該仮処分には臨時財産押収令も常に付けられる(裁判所の執行費用及び請求人側の弁護士費用を確保するため)。従って、仮処分請求という民事ルートは展示会でよく使われ、影響力も極めて大きい。

 

3)刑事ルート

つまり、検察庁は警察及び税関と協力して刑事調査、証拠収集を実施する。その国際法の根拠はTRIPS協議§61条及びACTA協議であり、ドイツ法律の根拠は特許法、商標法、著作権法等である。ドイツ刑法法典の関連規定によれば、侵害行為がドイツ刑事訴訟法に規定された「初歩嫌疑」の程度に達すると、刑事犯罪を構成するおそれがある(但し、一般的には同一侵害と故意侵害の状況に限る)。ヨーロッパにおいて、刑事調査がフランスとイタリアによく使われている(主に商標と著作権侵害のケース)が、近年、ドイツに採用されたこともある(2009年のドイツCeBIT展示会でIP侵害刑事告発事件は29件もあった)。刑事調査だけが行われ、訴訟に至らないケースが多いが、出展者はこのような刑事調査に対して防御措置を取ることが不可能なので、結局被疑侵害出展品が証拠として没収、又は押収されることになる。

 

二、IP取締リスクへの対応策

1)長期的な対応策

ヨーロッパとドイツでの特許出願及び出願計画を積極的に行うこと、ウォーチングシステムを作り、ライバルの関連製品及び知財情報を収集すること、ライバルとのクロスライセンスも含まれ、必要なライセンスを積極的に取得することが考えられる。

 

2)出展前の対応策

保護令(Protective Writ)を事前に準備して関連する裁判所へ予めに提出する。こうして、裁判所が仮処分の請求を受けたとしても、口頭審理をしなければ仮処分の決定を下せないから、出展者は最後まで出展できる可能性が向上する。保護令で主張できる抗弁理由は下記の通りである。即ち、被疑侵害出展品と関連特許を比較分析したこと(分析レポートの提出が必要)、ライセンスを取っていること、非緊急事態であること、権利が不安定であること(無効になる可能性がある)、及びSEP特許に対するFRAND抗弁である。理論上は税関へ保護令を提出することもできるが、実際の効果は明らかに裁判所への提出による効果に及ばない。保護令の効果を強めるために、裁判所に更に非侵害宣誓の保証書と保証金を同時に提出することが考えられる。

 

3)出展中、出展後の対応策

●明らかに侵害している出展品について、権利者から警告状を受けたら、今後侵害しない旨の保証書を渡し、侵害出展品を取り下げればよい。さもなければ、仮処分が実施されると、より大きな損失が生じる。

●侵害しているか否かが分からず、該出展品にとってドイツ市場がそれほど重要ではなければ、本回の展示会で関連製品を展示しないことを自ら書面で承諾し、または、他国(例えば、米国)向けのみであることを明示すればよく、侵害責任を認める必要がない。また、警告状に記載された賠償金及び弁護士費用について相手と協議することができる。

●「簡易化した処分プロセス」(simplified procedure for destruction)の適用に対する反対意見を書面にて税関に出す。

●仮処分に対して異議申立てを行う。異議申立ての一審に2週間以上がかかり(速くとしても何日がかかる)、その後二審に入る可能性もあるが、展示会は通常数日しか開催されないから、押収という結果を変えることができない。ところが、該異議申立てにより、最後に仮処分を解消し、更に仮処分濫用の責任を権利者に追及する可能性がある。

●相手に期限内に正式提訴させることを裁判所に請求する。これは、仮処分濫用と確実に判断した場合に使われる対応策である。訴訟費用、理由不足などの原因で権利者から期限内に提訴されなかった場合に、仮処分の取下げを裁判所に請求することができる。権利者から正式に提訴された場合、被告は積極的に応訴しなければならない。さもないと、欠席裁判に実質審査が行われないから、被告にとっては不利になる。


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