知財情報

登録商標が無効される前の使用行為は他者の商標権侵害に該当するか

作者:尚杨杨 | 更新しました:2023-09-25 | ビュー:

はじめに

中国現行商標法において、登録商標が無効と宣告された場合、無効される前の商標使用行為が他人の商標権を侵害するかどうかとの認定について明確に規定されておらず、実務上、地方裁判所の態度も異なっている。本文は、各地方裁判所の観点をまとめ、企業にアドバイスを提供することを目指す。


1.中国現行商標法の関連規定

第四十七条 この法律の第四十四条、第四十五条の規定により無効宣告された登録商標については、商標局が公告し、当該登録商標専用権は初めからなかったものとみなす。

登録商標の無効を宣告する決定又は裁定は、無効宣告される前に人民法院で行われかつ執行された商標権侵害案件の判決、裁定、調停書及び工商行政管理部門で行われかつ執行された商標権侵害案件の処理決定、並びに履行された商標譲渡又は使用許諾契約に対して遡及しない。ただし、商標登録者の悪意により他人に与えた損害は、賠償しなければならない。

前項の規定により商標権侵害の賠償金、商標譲渡料、商標使用料を返却しなければ、明らかに公平の原則に反するときは、全部又は一部を返却しなければならない


上記の条文から判断すると、無効宣告の効力について、原則として無効とされた商標に関して遡及力があり、一部例外の場合では遡及力を持たない。

しかし、現行中国商標法には、商標が無効宣告される前に、この商標の使用行為はどう認定するかは明確に規定されていない。


中国では、商標登録は行政の認可行為と広く認識される。それによって、行政行為に対する信頼保護が生じる。商標権者が商標登録の出願、及び商標登録後の使用において、何の悪意もなく、ただ他者の先行登録商標と類似するため、その商標登録が無効とされることがある。その場合、商標登録が無効とされる前に、行政機関の認可に基づき、その商標を使用していたのに、その使用行為が後で他者の商標権を侵害した行為であると判定されることは、商標権者の予想を超えるものだ。

その上、商標の類否判断は一定の主観的な要素に影響される。中国の実務から見れば、類似性の判定は次第に厳しくなってくる。そのため、審査基準の変化により、他者の先行登録商標と類似するとの理由で、登録商標が無効と宣告される場合、無効前の商標使用行為が他人の商標権侵害行為と認定されると、なかなか納得できないことである。

さらに、商標法では、三年不使用取消の制度も定められている。登録商標を継続して過去三年間で使用しなかった場合、いかなる企業または個人の請求により、商標登録を取消すことができる。商標権者にとって、自社の登録商標が取消されることを避けるために、使用しなければならない。一方、使用すれば、もし後に登録商標が無効と宣告されたら、その前の使用行為が他者の登録商標権を侵害すると判定されるリスクがある。そうなると、商標権者が登録商標を使用するかしないかの窮地に陥る。


そのため、商標が無効宣告される前の使用行為に対して、法律上明確な規定がない場合、慎重に判断すべきだと考えている。筆者が関連事例を調査した結果、各地の裁判所のやり方は一致していないことが分かった。参考までに、このような先行事例を整理し、各地裁判所の見解をまとめた。


2.各地裁判所の見解


過去数年間における、地方裁判所の関連事例を調査した結果、主に以下のような三つの見解が存在していることが分かる。


信頼保護を考慮せず、商標が無効とされると初めから無効なものであるとみなされ、無効される前の使用行為が他者の商標権侵害行為に該当し、賠償責任を負うべきとする見解。

2. 信頼保護を考慮し、商標権侵害に該当するかどうかは被告が商標の登録時または登録後の使用時に主観的な悪意があるかどうかによって判断する見解。

3. 商標が無効と宣告される前の使用行為が他者の商標権侵害に該当する。ただし、損害賠償責任の有無は、侵害者の主観的な過失によって判断する見解。

. 企業へのアドバイス


以上の事例からみると、裁判所がどのような判断基準を取ろうとも、商標登録出願または登録後の使用において、悪意や主観的な過失が存在する場合は、無効と宣告される前の商標使用行為が他者の商標権侵害と判定され、賠償責任を負うことになる。

ただし、悪意や主観的な過失の判断に関しては、各地の裁判所は比較的緩やかな認定標準を採用しており、無効審判の裁定に、行政機関が悪意を認定したかどうかを前提としていない。検索された先行判決に基づき、よく見かける悪意や過失と認定される状況を以下にまとめた。


① 以下の行為について、明らかな悪意を持っていると認定される可能性がある。

訴えられた侵害製品の外観やパッケージが、侵害主張人の製品を模倣していること;

訴えられた侵害者が、侵害主張人の商標に類似した商標を何度も出願したこと;

訴えられた侵害者が、自分の登録商標が無効宣告された後、再び同一または類似商標を出願したこと。
② 以下の行為について、悪意を持っていると推定される可能性がある。

侵害訴訟の原告の商標が馳名商標と認定されたことがあること;

侵害訴訟の原告の商標が一定の知名度を持ち、侵害者は原告が同じ業界に所属し、同じ地域で経営活動をすること。

③ 以下の行為について、主観的な過失があると認定される可能性がある。

登録商標の使用に該当しないこと;

無効審判が提起された後もその商標を使用し続けること;

無効審判が提起された後に、登録商標を譲受して使用するまたは許可されて使用すること。
 注意すべきのは、2022年に浙江省民事訴訟第643号判決では、裁判所が標識「非靡」の使用は無効と宣告された第17715755号「FEIMI非靡」登録商標の使用に該当しないと認定した。組合せ商標の一部のみを使用するのが企業の日常的な経営活動でよく見られるが、登録商標の使用ではないと認定される可能性があるため、注意を払いたい。


そして、外国企業が中国で事業を展開する場合、商標に関して、「攻める」ことも「守る」こともできるように、以下のアドバイスを提供する。


守り手」として

① 商標譲渡の交渉に際して、事前に譲渡者が所有しているすべての商標を調べたほうがよい。譲渡者が正常な経営活動の需要を超え、大量な商標を所有している場合、または他者の商業標識を大量に複製、模倣する場合、その商標が無効とされるリスクが高い。なお、無効宣告される前の使用行為が他者の商標権侵害と見なされ、賠償責任を負うリスクがある。


② 登録商標が他者によって無効審判を提起された場合、使用を継続するかどうか、権利者が無効宣告の成功率や商標権侵害のリスクを検討しながら、慎重に決めたほうがよい。


③ 登録商標を使用する際には、できるだけ登録時の商標の様態に沿って使用したほうがようい。 


「攻め」として

① 商標公告のモニタリングを積極的に行う。必要であれば、異議申立て手続きを活用し、自社商標と類似する商標の登録をできる限り阻止する。そうすれば、自社の商標権を保護するコストと難度が低減される。


② 登録商標に関する紛争(馳名商標を除く)については、一般的に行政手続き(無効審判請求など)を先行する必要がある。ターゲットとなる登録商標に対して無効審判を請求する前に、この登録商標の使用証拠を事前に保全したほうがよい。ターゲット商標の権利者が意図的に混同行為を行っている場合、その証拠が無効審判の成功率を高めるだけでなく、将来の侵害訴訟において、侵害賠償も主張できる。


③ ターゲット商標について無効審判請求がされた後、その商標の使用者が使用行為を停止したかどうかを継続的に監視し、将来の訴訟に構えるように、使用の証拠を保存したほうがよい。


参考資料

[1] (2021)京0105民初66407号

[2] (2020)浙06民初205号

[3] (2021)闽0582民初6756号