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2023年度最高人民法院専利権侵害紛争二審判決データ分析

作者:史騰 張祥 | 更新しました:2024-04-10 | ビュー:

当該データ分析ではアイピーハウスの判例データベースに収録されていた2023年1月から12月までの専利権侵害紛争にめぐる最高人民法院知的財産権法廷が下した二審判決書を検索・整理し、これら判決書に示された事由の割合、一審判決を変更した案件の割合、訴訟請求の支持率、賠償金額の支持率などの統計データを初歩的に分析し、最高人民法院知的財産権法廷が2023年度に下した専利権侵害紛争事件の二審判決の傾向をより明確に理解することにおいて役に立つことを願っています。


なお、データベースが収集した判決書の数に制限され、当該分析が根拠とする二審判決書の状況は、最高人民法院知的財産権法廷の実際の裁判状況とは大きな偏りがある可能性がある。この分析内容は、参考だけであり、指摘点やコメントがあればいつも歓迎します。  

一、データの出所


1、データの出所
アイピーハウス判例データベース

2、データの範囲
2023年度(2023年1月1日~2023年12月31日)に最高人民法院知的財産権法廷が作成し、データベースに収録された二審判決書(専利侵害紛争の実質的な問題を中心に分析を行うため、当該分析では判決書のみを収集し、裁定書は分析対象から除外する)

3、案件の種類
専利権侵害紛争案件

4、収集の時間
2024年3月23日にデータ収集を完了した。

二、最高人民法院が二審判決を下した専利権侵害紛争事件に対するデータ分析


(一)案件数の統計データ


データ収集日まで、アイピーハウス判例データベースに収集された二審判決書の年間総案件数は44件であり、そのうち、通年の案件数のピークとなった3月は15件で、通年の案件数の34.09%を占めた。


2022年度のデータと比較すると、データベースに収録された2023年に判決が下された案件数は67.09%減少した。

(二)各事由の案件数

2023年に最高人民法院が下した二審専利権侵害判決における各事由の統計分析によると、最高人民法院が下した専利権侵害紛争の二審判決の主な事由は特許権侵害紛争と実用新案権侵害紛争とに分けることができ、その中、特許権侵害は29件で65.91%を占め、実用新案権侵害紛争は特許権侵害紛争より明らかに少なく、15件で34.09%を占めていた。

(三)判決結果の分析


1、全体状況の分析

データベースに収録された二審判決書のうち、一審判決が維持された結果は32件で72.73%を占め、一審判決を取下げた案件は7件で15.91%を占めていた。一部維持、一部取下げが5件で11.36%を占めていた。


2、専利権侵害紛争事件の各事由における判決状況

データベースに収録された二審判決書のうち、特許権侵害紛争事件は計29件であり、そのうち、一審判決を維持した案件の割合が最も高く、20件であり、特許権侵害紛争案件全体の68.97%を占めている。一審判決の取下げは6件であり、特許権侵害紛争事件総数の20.69%を占めている。一審判決の一部維持、一部取下げが3件であり、割合が10.34%で最も低かった。


データベースに収録された二審判決書のうち、実用新案権侵害紛争事件は15件であり、そのうち、一審判決が維持された結果は12件として最も多く、80%を占めている。一審判決の取下げは1件であり、6.67%を占め、一審判決の一部維持、一部取下げが2件であり、13.33%を占めている。


2種の事由の異なる案件を比較して分析すると、2種の事由の二審判決の結果において、一審判決を維持した事件の数がいずれも圧倒的多数を占め、一審判決を変更した事件の数が低く、一審判決の取下げ、一審判決の一部維持、一部取下げた案件の割合はいずれも20%~30%であることが分かった。

3、二審判決で覆された案件の具体的な種類

計44件の二審判決の中、一審判決が維持された案件は32件であり、残りの12件では一審結果に変更があった。二審判決により一審判決の結果に変更があった12件の案件には一審で侵害と賠償金額が認定されたが、二審で非侵害になった案件が5件であり、このような判決変更案件は判決変更案件総数の41.66%を占めている。一審で非侵害が二審で侵害と賠償金額が認定された案件が2件であり、このような判決変更案件は判決変更案件総数の16.67%を占めている。その他には一審と二審とも侵害を認定していたが、一審判決で出された賠償金額が二審で変えられた案件が3件であり、案件総数の25%を占めている。侵害認定と賠償金額に変更はなかったが、二審で賠償金額の根拠などその他に変更があった案件が2件であり、16.67を占めている。

四、判決結果の分析


1、原告の訴訟請求の支持率
データベースに収録された前記44件の案件のうち、原告の訴訟請求を支持、或いは一部支持した案件が26件であり、59.09%を占め、これら案件のうち、侵害と判定されたのは24件であり、他の2件は非侵害となる。原告の訴訟請求を支持しない案件は18件で、その割合は40.91%であり、そのうち、北京xx社、李xx社の特許権侵害紛争案件は、法院は被告が侵害を成立すると認定したが、原告が訴訟権利を濫用したため、その訴訟請求は支持されなかった。それ以外の17件はいずれも非侵害と判定し、その不侵害の判定理由はいずれも「保護範囲に入っていない」であった。

2、損害賠償状況の分析 


(1)全体状況


データベースに収録された前記44件の案件のうち、権利者が損害賠償を請求する案件 は42件である。原告の請求は特許権を侵害していないことを確認するためだけである案件は2件、いずれも保護範囲に入っていないため、最高人民法院によって非侵害と判定された。


損害賠償を請求した42件においては、原告が請求した損害賠償の全額が支持された のが4件だけであり、損害賠償が請求した案件全体の9.52%を占めていた。 


(2)権利者による損害賠償金額の立証


損害賠償金額の立証状況に関して、今回の統計では原告の証拠が主に侵害行為により被られた損失と被疑侵害者の侵害による利益との二つに集中していた。その他としてライセンス費用、権利の安定性と価値性、侵害行為の性質と重大さ及び悪質さ、被疑侵害者の主観的悪意性などの証拠を原告が提出した案件もあった。


賠償金額における最高人民法院の主な考量要因としては権利者の損失、被疑侵害者の利益、ライセンス費用、専利の類型、権利の安定性、価値性、被疑侵害者の主観的悪意性、侵害行為の性質及び情状、侵害規模などであった。

(3)判決金額の分布状況

データベースに収録された前記44件の案件のうち、損害賠償額が出された案件は25件であり、その金額状況を見ると、100万元以上(100万元を含む)が5件(20%)、50~100万元(50万元を含む)が3件(12%)、10~50万元(10万元を含む)が11件(44%)、10万元以下が6件(24%)であった。


(4)賠償金額と支持率


2023年度、最高人民法院が出した二審判決で侵害行為が成立すると見なされた案件は25件であり、以下、上述の案件について賠償額に関する分析研究を行う。

① 事由を区別しない全体状況

前記25件の案件のうち、全額支持が4件、一部支持が21件で各割合は16%と84%になる。


権利侵害と判定された25件の事件の判決状況について分析し、その平均請求額、一審と二審での各平均賠償金額によると、侵害が認められた25件の平均請求額は425.84万元で、一審平均金額は249.91万元、二審平均金額は347.67万元であった。平均賠償額を基準に平均支持率を算出すると、一審の平均支持率が58.69%、二審の平均支持率が81.64%に達することになる。


前記25件の案件を基準に権利者の請求額と賠償額の中位数を算出すると、請求額の中位数が100万元になり、一審賠償金額の中位数が20万元、二審賠償額の中位数が20万元になる。中位数を基準に賠償金額の支持率を算出すると、一審損害賠償額の支持率が20%、二審の支持率は20%になる。

② 各事由別の状況

上述の25件のうち、17件が特許権侵害案件であり、8件が実用新案権侵害案件である。筆者は、特許と実用新案の2つの異なる事由について、平均請求額、一審の平均賠償額、二審の平均賠償額をそれぞれ統計的に分析してみた。そのうち、特許権においては平均要求額が589.90万元、一審平均賠償額が359.77万元、二審平均賠償額が503.35万元になり、二審平均支持率は85.33%になる。実用新案権侵害紛争においては平均請求額が77.19万元、一審平均賠償額が16.47万元、二審平均賠償額が16.47万元、二審平均支持率は21.33%になる。

また、筆者は2種類の事由の請求額の中位数、一審賠償額の中位数と二審賠償額の中位数を統計的に分析した。そのうち、特許権侵害においては請求額の中位数が120万元、一審賠償額の中位数が35万元、二審賠償額の中位数が36.49万元であった。実用新案侵害紛争の場合、請求額の中位数が57.5万元、一審賠償額の中位数が12.24万元、二審賠償額の中位数が12.24万元であった。中位数を基準に二審賠償額の支持率を算出すると、二審特許権の支持率が30.41%、二審実用新案の支持率が21.29%になる。

三、結論


当該データ分析ではアイピーハウスの判例データベースに収録されていた2023年1月から12月までの専利権侵害紛争にめぐり最高人民法院知的財産法廷が下した二審判決書を検索・整理し、上述の判決書に示された事由の割合、二審で結果が覆された案件の割合、訴訟請求支持率、判決支持率などの統計データを初歩的に分析したものである。データベースの収録数は、2022年度に収録された案件数より大幅に減少されたため、念のため、筆者は前記統計データを2021年度及び2022年度に作成した統計データと横比較せず、現在のデータサンプルのみに基づいて2023年度の分析結果を提供し、最高人民法院知的財産法廷の最新動向を理解するのに役立つことを期待する。