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当事者が権利の安定性問題について自発的に行った将来の利益補償承諾は支持すべき ——(2022)最高法知民終124号

作者:隋 怡文 | 更新しました:2022-09-22 | ビュー:

最近、最高人民法院知識産権法廷は、民事と行政の手続きが交錯する1件の実用新案の権利侵害紛争案件を結審し、初めて係争実用新案権の権利確定行政手続が既に開始されている状況で、双方当事者が自発的に将来の利益補償承諾を行うよう積極的に導き、かつ係争実用新案権の安定性に対する考慮に基づいて、起訴棄却の裁定を下した。


最高人民法院は、この事件をもって、係争権利の安定性に疑義又は争議がある場合には、公平と誠実さの考慮に基づき、双方の当事者はいずれも将来の利益に関する補償承諾又は声明を自発的に行うことができ、これから人民法院が審理を継続して判決を下す、訴訟を中止する裁定を下す、訴訟を却下する裁定を下すという3つの処理方法のいずれを採用するかに関わらず、双方の当事者の利益のバランスをより良くて効果的にとることができることを示したいとする。最高人民法院は、権利侵害事件を審理する第一審法院も、このような対応を当事者に説明し、同様のアプローチを積極的に試みることを期待している。


本件では、権利者のZ社が2017年に2つの実用新案(それぞれ係争実用新案と関連実用新案を称する)を同時に出願し、それぞれ登録した。係争実用新案ではUSBコネクタであり、関連実用新案ではACコネクタ及びそれに付随して使用される電源アダプタであることを除き、請求項の他の技術的特徴がすべて同一である。


国家知識産権局は2019年に関連実用新案について、すべての請求項が進歩性を具備しないと認定し、関連実用新案権が全て無効である無効審決を下した。Z社は当該審決に不服し、北京知識産権法院に行政訴訟を提起したが、北京知識産権法院はその訴訟請求を棄却する判決を下した。Z社は上訴を提起しなかったため、無効審決は既に法的効力を確定していた。


2021年に、Z社は、係争実用新案に基づいて被疑侵害者のS社に対して権利侵害訴訟を提起した。


第一審法院は、係争実用新案と関連実用新案とは実質的に同一であり、関連実用新案は無効されたため、係争実用新案も権利付与を受けるべきでないことが明らかであり、又は極めて可能性があり、専利法が保護する合法的権益に属しておらず、S社の無効抗弁が成立すると認定した。第一審法院は、Z社の訴訟請求を全部棄却する判決を下したが、Z社は当該判決を不服し、最高人民法院に上訴した。


第二審において、S社は国家知識産権局に係争実用新案に対する無効審判請求を提出し、国家知識産権局は既に受理した。


二審合議体が係争実用新案権の安定性について、法規定に基づいて可能な処理方法を当事者に釈明した結果、双方の当事者はそれぞれ自発的に将来の利益補償承諾を行った。権利者は、主に、実用新案権が無効された時、関連権利侵害案件の実際の収益をすべて返還し、相応の利息を支払うと承諾し、被疑侵害者は、実用新案権が有効であると確認された場合に、権利侵害案件の全ての賠償金を支払い、相応の利息を支払うと承諾した。


係争実用新案と関連実用新案はいずれも実体審査を経ずに登録した実用新案権であり、両者の相違する技術的特徴は、市場でよく見られるUSBコネクタとACコネクタ及びそれに付随して使用される電源アダプタのみであり、且つ、両者は同日出願であることを考えて、関連実用新案が無効されており、S社も係争実用新案について無効宣告請求をしている状況では、係争実用新案権の安定性が明らかに不足しており、無効される可能性が極めて高い。この状況を鑑みて、最高人民法院は、S社の訴えを棄却する裁定を下した。係争実用新案権が有効であると確定すれば、権利者は再度提訴することができ、さらに、被疑侵害者の利益補償承諾に基づいて権利を主張することができる。


因みに、第一審判決が係争実用新案権の安定性に対する判断自体に明らかな不備はないが、権利侵害訴訟では被告の権利無効抗弁が成立すると直接認定し、これに基づいて原告の訴訟請求を棄却する判決を下したことは、法的根拠に欠けると、最高人民法院は意見を示した。


出所:最高人民法院知的財産法廷WeChat公式アカウント