中国専利法(以下、専利法という)と専利法実施細則(以下、実施細則という)の改正に従って、中国国家知識産権局(以下、国家知識産権局という)は、専利審査指南(以下、審査指南という)の改正版を公布した。改正審査指南は、2024年1月20日に正式に施行するようになった。今回の審査指南の改正は、専利法と実施細則の改正内容を反映するとともに、専利の質の向上、審査効率の改善と専利保護の強化を図るための改正もいろいろ行われている。
以下、実施細則と審査指南におけるいくつ重要な改正内容について紹介する。
(中国では、専利とは、発明専利(特許)、実用新案専利(実用新案)、外観設計専利(意匠)の3つが含まれる。本文では、便宜上、個別な専利について、それぞれ特許、実用新案、意匠で表し、専利というものは、この3者の総称となる。)
1.引用による補充、優先権の回復、優先権主張の追加・訂正(編集:謝 辰)
(1) 引用による補充
改正実施細則の第45条により、「引用による補充」という制度が導入される。実施細則の第45条によると、特許や実用新案の出願時に、請求項、明細書、図面、またはその一部の内容を欠落し、または誤って提出した場合、出願人が出願時に優先権を主張するとともに、この欠落された内容または正しい内容が優先権基礎出願に記載されていれば、基礎出願の内容を引用することで欠落や誤りを修正可能となる。優先権基礎出願から、欠落された内容または正しい内容を現在の出願に補充でき、現在出願の出願日を維持できる。補充された内容は、出願時に提出されたものとみなされる。
改正審査指南により、出願時に、正確かつ適時に優先権を主張することは、必須要件である。引用による補充は、出願日後の優先権の回復および優先権主張の追加・修正が発生する場合には適用されない。言い換えると、引用による補充のメリットを享受するために、出願日に優先権を正しく主張することが必須となる。
また、引用による補充の請求は、出願日から2か月以内、或いは、国家知識産権局が指定する期限内に提出しなければならない。この期限を過ぎた場合、引用による補充の権利を回復することができない。
さらに、引用による補充は、分割出願や意匠出願に適用されない。
最後に、優先権基礎出願の内容を補充した後、クレームおよび明細書に基づく追加料金を再計算する。
PCT国際出願については、国際段階で既に引用による補充を行い、中国国内段階への移行時に関連手続上の要求が満たされれば、国際段階における引用による補充が認められ可能である。
(2) 優先権の回復
改正実施細則の第36条により、正当な理由があれば、優先期間の徒過から2か月以内に優先権を回復可能となる。この規定により、優先期間を超えても、優先期間の徒過から2か月以内、即ち、優先日から14か月以内に出願すれば、優先権の回復を請求することにより優先権主張が可能となる。
また、改正実施細則の第128条により、国際出願の出願日が優先期間徒過から2か月以内であって、国際事務局が優先権の回復を認めた場合、中国移行出願について優先権の回復請求がされたものとみなされ、出願人は再度優先権回復手続きを行う必要がない。国際出願の出願日が優先期間徒過から2か月以内であるが、国際段階で優先権の回復を請求せず、或いは、優先権の回復請求が認められなかった場合、中国移行日から2か月以内に優先権回復の請求が可能となる。
また、優先権の回復は、特許出願・実用新案出願のみに適用され、意匠出願に適用されない。また、優先権の回復手続きは、庁費用の納付が必要となる。優先権の回復請求の期限は、2か月となり、この期限を超えると、優先権の回復権利を回復できない。
(3) 優先権主張の追加・訂正
改正実施細則の第37条により、優先日から16か月以内、または出願日から4か月以内に優先権主張を追加・訂正することが可能となる。この規定により、出願時にすくなくとも1つの優先権を主張した場合、所定な期間内に優先権主張の追加・訂正が可能となる。
優先権の回復と同様に、優先権主張の追加・訂正は、特許出願と実用新案出願のみに適用され、意匠出願に適用されない。また、優先日から16か月以内、および出願日から4か月の期限を超えた場合、優先権主張の追加・訂正の権利を回復できない。
注意されたいのは、優先権の回復と優先権主張の追加・訂正とを共に請求することができない。
2.重要期限の変更又は明確化、及びPCT出願の中国国内段階へ移行する際の実体審査費用減免の取消(編集:舒 康蘭)
(1) 電子送達時15日間の郵送期間の廃止
改正実施細則に応じて、審査指南により、国家知識産権局が電子方式で送達される通知書及び書類について15日間の郵送日を廃止することを確定した。これは、2024年1月20日より、国家知識産権局によって電子方式で発行されるいずれの通知書について、応答期間が以前適用された期間より15日短縮されることを意味している。改正実施細則及び審査指南によると、電子方式で国家知識産権局に提出される各書類については、国家知識産権局の電子システムに入った日が提出日となる。また、国家知識産権局によって電子方式で発行される各書類については、受取側の電子システムに入った日が送達日となる。
改正審査指南では、電子方式で提出された書類の提出日の取扱いは、以前の実務と同様であるが、大きいな変更点は、国家知識産権局によって電子方式で送達した書類の送達日にある。
以前の実務において、国家知識産権局が電子方式で書類を発行する場合には、郵送による発行と同様に、送達日について、書類の発行日に15日の郵送期間を加算して計算された日を送達日として推定された。しかし、改正後、電子方式で送達される書類についてこの規定は適用できなくなる。その代わりに、「当事者の認めた電子システムに入った日が送達日となる」。実務上、電子方式で送達される書類は、書類が発行されたほぼ同時に当事者の電子システムに到着し、すなわち、送達日は、発行日と同じになる可能性が高い。したがって、出願人にとって、15日の推定される郵送期間がなくなり、実際の応答期間が短縮される。
(2) 秘密保持審査の審査期間の明確化
改正実施細則により、出願人から出願人が中国で完成した発明創造について外国で特許又は実用新案を出願するための秘密保持審査(クリアランス審査)の請求を受けた後、国家知識産権局は、当該特許出願又は実用新案出願が国家の安全又は重大な利益にかかわって秘密保持が必要となると判断される場合、以前に定められた「適時通知」ではなく、2ヶ月以内に出願人に通知書を発行しなければならず、複雑な場合は、通知書の発行が2ヶ月を延長できることを明確にした。改正実施細則により、国家知識産権局は、以前に定められた「適時通知」ではなく、秘密保持審査の請求受取日より4ヶ月以内に秘密を保持する必要があるかどうかを決定しなければならず、複雑な場合は、決定を下すのを延長できることも明確にした。
以前では、実務上、国家知識産権局の秘密保持審査決定を下す速度が非常に速く、通常約2〜4週間以内で、請求された出願のほとんどは外国で出願することが許可される結果となった。現在、秘密保持審査に関する審査期間の明確化により、出願人の決定を待つ時間が長くなるか短くなるかは不明だが、改正実施細則では、出願人が4ヶ月以内に何の通知書も受け取っていない場合におけるデフォルトの外国出願許可が取り消されたため、出願人は決定を受けるまで待たなければならないことが明確になった。
改正審査指南により、出願人が中国で完成した発明創造について外国で特許出願又は実用新案出願を第1国出願または第2国出願として提出するために、秘密保持審査(クリアランス審査)を請求する場合、この秘密保持審査の審査期間を明確にした。
即ち、技術方案が明らかに秘密保持にする必要がない場合、審査官は、秘密保持審査の請求提出日から2ヶ月以内に当該技術方案について外国へ出願できることを請求人に通知しなければならず、複雑な場合では、審査官は、請求提出日から4ヶ月以内に請求人に通知することができる。審査官が技術方案に秘密保持にする可能性があると判断した場合、審査官は、請求人に更なる秘密保持審査が必要となり、外国への出願が一時保留されることを通知しなければならない。出願人に外国への出願の一時保留が通知された場合、審査官は、更なる秘密保持審査を行わなければならず、必要に応じて関連分野の技術専門家を招請して審査に協力してもらうことができる。審査官は、請求受取日より4ヶ月以内に決定を下す必要があり、複雑な場合には請求受取日より6ヶ月以内に決定を下すことができる。
(3) 発明者の変更について一ヶ月の期限設定
注目すべきことに、改正審査指南では、発明者名前の記入漏れ又は誤記について、発明者の変更が必要となる場合に1ヶ月の期限が設けられており、これは、出願人が関連書類の認証を完了するのに大きな負担をかける可能性がある。
より具体的に、改正審査指南における第1部第1章第6.7.2.3節では、「(3)発明者名前の記入漏れ又は誤記のために変更請求を提出する場合、受理通知書の受取日より1ヶ月以内に、出願人全員と変更前後の発明者全員が署名又は捺印した証明書類を提出しなければならない。その中には、変更の原因を明記しなければならず、変更後の発明者が実施細則第14条の規定に従って発明創造の実質的特徴に対して創造的な貢献をした全員であることを確認したと説明しなければならない。」が記載されている。
(4) 復審請求における権利回復のための期限の明確化
改正実施細則により、復審請求期限が徒過した場合、出願人は復審請求期限が満了する日より2ヶ月以内に権利回復を請求できることを明確にした。改正審査指南により、上述した規定を確認し、さらに下記のことが規定されている。即ち、たとえ出願人が拒絶査定を受けてから3ヶ月以内に復審請求を提出しなかったため、国家知識産権局が出願人の復審請求を受理しない決定を出した後としても、出願人が合法的な権利回復請求を提出した限り、国家知識産権局は、その復審請求を受理しなければならない。
実際に、実務においては、すでに上記の規定に従って行われているが、明確な法律規定がなかった。今回の改正により、実務に法的根拠が提供されている。
(5) 遅延審査請求期限の設定
改正審査指南により、出願人は、特許出願、実用新案出願、意匠出願のすべての3種類の専利出願について遅延審査請求を提出することができる。
特許出願について、出願人は実体審査請求を提出する時、遅延審査を請求することができる。この場合、遅延審査請求は実体審査請求と同時に提出しなければならず、出願人は1年、2年又は3年から遅延期間を選択しなければならない。
実用新案出願について、出願人は遅延審査を請求することもできる。この場合、遅延審査請求は、実用新案出願を提出する際に提出しなければならない。また、実用新案出願について、定められる1年の遅延期間以外、その他の遅延期間の選択肢がない。
意匠出願について、出願人は遅延審査を請求することもできる。この場合、遅延審査請求は意匠出願を提出する際に提出しなければならず、出願人は遅延期間を決定しなければならない(遅延期間は月単位で最大36ヶ月となる)。
遅延審査請求が提出されたら、国家知識産権局は遅延期間満了まで審査を始まらない。遅延審査請求が提出されたとしても、出願人は遅延期間満了までの任意の時点で請求を撤回することができる。これにより遅延期間を終了させ、出願は順番で審査される。
なお、特許出願又は実用新案出願について、遅延審査請求は、出願の自発補正期限を変更しない。即ち、出願人は自発補正を行いたい場合、依然として法律法規で定められている時期に行わなければならない。より具体的には、自発補正は、特許出願の場合、実体審査請求を提出した時及び/又は出願が実体審査段階に入った通知書の受取日から起算した3ヶ月以内、また実用新案出願の場合、出願日から2ヶ月以内に行わなければならない。
(6) PCT出願の国内段階移行における実体審査費減免の取消
注目すべきのは、審査指南の第3部第1章第7.2.2節により、「国際調査報告が欧州特許庁、日本特許庁、スウェーデン特許庁の3国際調査機関のいずれかの1つによって作成された国際出願は、国内移行段階で実体審査請求を提出した場合、出願人が80%の実体審査費用を納付する必要がある」という内容が削除された。
これは、過去に国内段階移行となるPCT出願に適用されていた実体審査費用の減免が取り消されており、ISRがEPO、JPO、又はSPOによって発行される場合でも、出願人は全額の審査費用を支払わなければならないことを意味する。
3.新規性喪失例外規定の緩和及び証明負担の緩和(編集:舒 康蘭)
改正実施細則により、学術会議又は技術会議に参加する場合に新規性喪失しない猶予期間を享有できる範囲が拡大され、また、国際展示会、学術会議、及び技術会議に係る証明資料の要求も緩和される。
より具体的には、改正実施細則では、発明の初めての発表について、新規性喪失の例外として認可される学術会議及び技術会議を「国務院の関連主管部門又は全国的な学術団体組織によって開催される学術会議又は技術会議」から「国務院の関連主管部門又は全国的な学術団体組織によって開催される学術会議又は技術会議、及び国務院の関連主管部門によって承認される国際会議」に拡大した。
この改正により、中国国務院の関連主管部門によって承認される限り、IEEE、3GPPなどの国際組織によって開催される国際会議が認可されるかもしれない。しかし、どのような国際的な学術会議又は技術会議が承認される会議となること、また会議の開催地に対して地理的な要求があるのかを実施細則又は改正審査指南のいずれにも明確していない。これについて、国家知識産権局の書面な解釈及び/又は審査実務によってさらに明確する必要がある。
改正実施細則により、新規性喪失例外の適用を申請するため、認可される「国際展覧会」での発明の展示と認可される学術会議又は技術会議での発明の発表を証明する証明資料の要求も緩和される。
改正前には、証明資料に対する要求がより厳しく、出願人は、関連する国際展覧会、学術会議又は技術会議の開催機関によって発行された証明資料を提出する必要があったが、改正には、証明資料について、開催機関によって発行される必要がなくなる。出願人は、発明の展示や発表、及び展示や発表の日付を証明できる証明材料(例えば、日付付きパンフレット)のみを提供すればよく、証拠面の要求が大幅に緩和される。
上記規定はいずれも改正審査指南に反映されている。そのほか、改正審査指南では、専利出願が専利法第24条第1項(国家の緊急事態又は非常事態において公共利益の目的のために初めて公開されること)又は第4項(他人が出願人の許可を得ずに公開されること)に記載される状況になっており、かつ出願人が国家知識産権局の通知書を受けて初めて上述した状況を知った場合、出願人は新規性喪失しない応答意見及び証明書類の添付を通知書で指定された期限内に提出しなければならないことが規定される。必要に応じて、国家知識産権局は出願人にその状況が発生した日付と内容を証明できる証明書類の提出を請求することもできる。
4. 審判手続きに関する改正(編集:張 濤)
審査指南の今回の改正内容では、係属期間をさらに短縮し、審判官の負担を軽減するために審判の手続きがいろいろ改正されている。そこで、無効案件の係属期間を短縮するため、注目すべき点は以下の3つある。
(1) 無効審判における職権による審査
改正審査指南において、一般的な原則として、専利権の付与が明らかに専利法及びその実施細則の規定に違反した場合に審判官が職権で審査できるという規定が導入されている。
ただし、改正審査指南では、第四部分第三章4.1に列挙されている7つの状況をさらに拡大したり、包括的な条項を追加したりすることはない。係属期間をさらに短縮するために、無効審判請求の軽微な欠陥を修正するために審判官がこれらの欠陥に対して職権によって審査を行うことができると考えている。
(2) 口頭審理
改正審査指南によれば、「簡単な案件」の口頭審理については、合議体メンバー3名全員ではなく、担当審判官が単独で担当できることとなる。これにより、審判官は主な責任を負わない案件の口頭審理に出席する必要がなくなる。
(3) 請求項の補正
改正審査指南において、無効審判における請求項の補正をさらに制限する一般規定が追加されている。
新しい規定によれば、専利権者は無効請求の理由及び合議体が指摘した欠陥に対する補正しか行うことができない。この規定はEPOとUSPTOによって採用されている。上記の一般規定よれば、独立請求項を増加する補正は認められなくなる。
また、もう1つの重要な改正点は、電子データの形で提出された無効請求に15日間の猶予期間がなくなったことにある。これによって、無効審判手続き全体のスピードが速くなる。このため、審判官はさらに審判期間を短縮したり、より多くの案件を処理したりできるようになる。
無効審判手続きについて、今回の改正にはさらに下記のようなハイライトがある。
① 口頭審理に出席する当事者の代理人
改正審査指南では、口頭審理に出席する当事者の代理人の範囲が民事訴訟法の規定に準ずる公民代理人に改正されている。この改正によって、例えば、代理人が出願人の関連会社の社員である場合には、口頭審理の参加が許さない可能性がある。
② 審決の公開
改正審査指南においてウェブサイトで審決を公開することを含むように審決の公開に関する文字表現が修正されている。すべての審決は、訴訟を提起するか否かを問わずに国家知識産権局のウェブサイトで公開されることになる。審決の検索システムはまだ開発中であり、来年稼働される可能性がある。
③ 出願日から専利権の放棄
改正審査指南において、ダブルパテントの問題を解決するために、無効審判において専利権者が出願日から専利権を放棄できることが確認されている。
拒絶査定不服審判手続きについて、注目すべき改正点は下記の2点がある。
まず、前置審査は元の実体審査部門が担当するという規定がなくなる。改正により、出願の元の審査部門(実体審査を担当するもの)が審査協力センターの一つである場合には、複審段階の前置審査は国家知識産権局本部の審査官が担当することになる。
次に、国家知識産権局は拒絶査定が正しいと判断した場合、拒絶査定を維持する審決ではなく、審判請求を却下する審決を発する。
5.パテントリンケージに係わる無効審判手続(編集:楊 薇)
パテントリンケージ制度は、2021年に、中国専利法の第4回改正により導入されてきる。その後、数十社の後発医薬品会社は、該パテントリンケージ制度に基づいて、パテント・チャレンジを提起した。無効審判とパテントリンケージ訴訟/仲裁との整合をさらに促進するために、改正審査指南においても、パテントリンケージ紛争に係わる無効審判について具体的に規定されている。
規定されているのは、主に通知のことである。無効審判手続とパテントリンケージ訴訟/仲裁手続とは、それぞれ、異なる管理局/機関によって審査される。後発医薬品会社がパテントリンケージ紛争に面する際の一般的な戦略は、紛争特許に対して無効審判請求を提出することであるため、両方の手続の間に有効な通知メカニズムを築くのは、スムーズなシステムを構築することにおいて非常に重要である。
改正審査指南の規定によれば、関連機関に通知することは、各方の主な義務である。具体的には、後発医薬品会社がパテントリンケージ制度の下で第4類宣言をした後に、無効審判請求を提出する場合、無効請求の請求書にパテントリンケージに関連する案件であることを明記するとともに、後発医薬品申請の受理通知書及び第4類宣言の写しなどの関連の証明資料を提出する必要がある。後発医薬品会社が無効審判請求を提出した後に第4類宣言をする場合にも、速やかにPRBに通知するとともに、関連の証明資料を提出する必要もある。遅くとも、口頭審理終結前に、或いは、(口頭審理が行われない場合)審決が発行される前に提出すべきである。特許権者は、速やかに、関連の訴訟や行政裁決をPRBに通知すべきである。
さらに、改正審査指南には、パテントリンケージ紛争中の無効審判手続に関するいくつかの手続上の規定も明確化されている。同一特許に対して多数の無効審判請求が提出された場合、無効審判請求の提出日の時系列に応じて対応すべきである。先行の無効審判において、特許が補正されたうえ維持される場合、後の無効審判では、該補正後の特許書類を基にして審理することができる。
また、専利審査指南には、国家知識産権局、裁判所及び国務院薬品監督管理局の間の協力についてもより明確化されるようになる。裁判所または国務院薬品監督管理局の要請に応じて、国家知識産権局は、これらの機関に対して関連の無効審判案件の審査状態を通知することができる。無効審判の審理が始まる前に無効審判請求が裁判所または国務院薬品監督管理局に通知された場合、国家知識産権局は、審決を同様にこれらの機関に送付すべきである。
6.誠実信用原則に基づく審査範囲の変更(編集:曲 天佐)
(1) 誠実信用原則
専利出願行為を規範化し、専利審査の質量と効率を高めるために、改正専利法及び実施細則において、誠実信用原則が、初歩審査、実体審査、審判を含むすべての審査及び審判手続に正式に導入される。誠実信用原則の導入により、専利出願の審査範囲に変化が生じる。
専利法第20条:
専利出願及び専利権の行使は、誠実信用原則に従わなければならない。専利権を濫用して公共利益又は他人の合法的な権益を害してはならない。
実施細則第11条:
専利出願は、誠実信用原則に従わなければならない。すべての種類の専利出願は、真実の発明・創造活動に基づくべきであって、虚偽行為があってはならない。
(2) 審査範囲の変更
専利出願はいずれも真実の発明・創造活動に基づくべきであって、虚偽又は欺瞞があってはならない。
誠実信用原則は、専利法、実施細則及び部門規定(審査指南、第二部分、第1章、第5節)に規定されており、初歩審査、実体審査、復審審判、無効審判を含む専利審査及び審判全体において、誠実信用原則の適用が反映されている。
特に、審査官は、審査手続における拒絶理由としても、無効手続における無効理由としても、職権により自発的に誠実信用原則を考慮できることに、留意すべきである。例えば、復審審判手続において、合議体は一般的に拒絶査定の根拠となる理由と証拠のみを審査する。ただし、拒絶査定の根拠となった理由及び証拠に加えて、合議体は、出願に誠実信用原則に合致しない欠陥があることを発見した場合には、その理由及び証拠を審査することができる(審査指南、第4部分、第2章、第4.1節)。他の例として、無効審判手続において、専利権の取得が誠実信用原則に明らかに違反する場合には、合議体が職権により自発的に審査を行い、無効理由として実施細則第11条を導入することができる(審査指南第4部分、第3章、第4.1節)。
(3) 行政的な処罰及び処理
実施細則第100条:
出願人または専利権者が実施細則第11条および第88条の規定に違反した場合、県レベル以上の専利法執行部門は警告を与え、10万元以下の罰金を併科すことができる。
(1) 新規性又は進歩性の明らかな欠如や明らかな区別の欠如
審査の質を向上させるという同様の理由から、新規性又は進歩性の明らかな欠如や明らかな区別の欠如に関する審査は、実用新案出願及び意匠出願の審査範囲にも含まれる。
初歩審査において、審査官は実用新案出願は明らかに新規性又は進歩性が欠如するかについて審査を行わなければならない。より具体的には、審査官は、把握している先行技術情報又は抵触出願に基づき、実用新案出願は明らかに新規性が欠如するかを審査し、把握している先行技術情報に基づき、実用新案出願は明らかに進歩性が欠如するかを審査する。実用新案出願は実体審査の対象とならないため、このような新規性又は進歩性の欠如は明らかでなければならない。
また、意匠出願についても、先行意匠又は先行意匠の組み合わせと比べて明らかな区別を有するかを審査しなければならない。
通常の場合、審査官は先行意匠と単独で比較するか、又は2つ以上の先行意匠の組み合わせと比較することにより、意匠出願が上述の規定に明らかに合致しないか否かを審査することができる。
7.意匠に関する規定の変化(編集:韓 鋒)
今回改正された審査指南では、意匠に関する改正部分は、主に一般規定、部分意匠、及び意匠の国際登録制度などに関わっている。以下は、各改正点を詳細に説明する。
(1) 一般規定
(1.1) 提出図面の省略
改正審査指南により、立体物品の意匠について、物品の設計要点が係わっていない面の正投影図を省略可能になる。また、使用時に見えにくい、又は、見えない面の図面も省略可能である。
この改正では、提出図面に対する規制が緩和されるため、出願人はもっと柔軟に図面を準備できるようになる。
(1.2) 審査基準の厳格化
改正実施細則の規定からみると、意匠出願について、従来の単純な方式審査から「セミ実体審査」に切り替わることが分かる。改正審査指南により、意匠出願の初歩審査では、従来のデザインと比べて明らかな区別がないかということも審査されるようになる(単独比較)。
この改正は、実施細則の改正に伴うものであり、実用新案の改正内容と同じように、登録意匠の品質向上を目指すための措置であると考える。これにより、今後、意匠出願に関する拒絶理由通知が増える見込みである。
(1.3) 国内優先権
改正審査指南により、出願人は、出願日から6ヶ月以内に、先行の中国特許出願、実用新案出願、意匠出願に基づいて国内優先権を主張できるようになる。
中国意匠出願が最初の出願である場合、デザインに対する改善は、国内優先権の主張により先行するデザインとともに類似意匠として出願することが可能になる。また、国内優先権の主張により、意匠出願を部分意匠と全体意匠との間で変更することも可能になる。
(1.4) GUI意匠出願
改正審査指南により、GUI意匠出願は、適用物品を含まない形で提出可能になる。この場合、その意匠の名称には「電子機器」を含まなければならず、且つ、提出図面としてGUIの図面だけを提出すればよい。また、GUIの一部、例えば、「電子機器の道案内GUIの検索バー」のデザインは、部分意匠として保護されるようになる。
この改正では、GUI意匠出願に対する規制が緩和され、GUIに関する権利保護が強化される。
(2) 部分意匠
(2.1) 保護不可対象
改正審査指南により、部分意匠について保護を求める部分は、物品において比較的に独立する領域を形成でき、また、比較的に完全なデザインユニットを構成できることが要求される。なお、独立且つ完全なデザインとは、1つまたは複数の設計特徴を含み、且つ、閉じた境界を持つユニットである。
この改正により、例えば、カップの取っ手における屈曲線や眼鏡のレンズにける任意に切り取られた不規則な部分が保護対象として認められない。
この規定に応えるために、閉じた境界を持つ部分について保護を求めたほうがよいと考える。もし物品において保護を求める部分と保護を求めない部分との間に物理的な構造線がある場合、閉じた物理的な構造線により保護範囲の境界を形成したほうがよい。もし明確な物理的な構造線がない場合、例えば、以下の図1に示すように、1点鎖線によりその部分に対応する機能領域を区切る必要がある。
図1 マッサージャーのデザイン
また、物品表面の模様(例えば、二輪車表面の模様)自体が部分意匠の保護対象とはなれない。つまり、平面物品(GUIを除く)、立体物品の表面模様や立体物品の平面構造が部分意匠の保護対象として認められない。
(2.2) 部分意匠の表示方法
改正実施細則及び審査指南により、部分意匠を出願する場合、物品全体の図面を提出する上で、破線と実線との組み合わせ、又は、他の手段により保護を求める内容を表示すべきである。
つまり、図面として線図を提出する場合、実線により保護を求める内容を表明し、破線により保護を求めない部分を表示することができる。
また、図面として写真又はCG図を提出する場合、例えば、物品本体とは異なる単色な半透明層により保護を求めない部分をカバーすることにより保護を求める部分を表示することができる。
さらに、他の手段により保護を求める部分を表示する場合、簡単な説明の部分に、保護を求める部分を明確に説明する必要がある。2.1の部分にも説明したように、もし物品において保護を求める部分と保護を求めない部分との間に明確な境界がない場合、1点鎖線によりそれらの境界を表明する必要がある。
(2.3) 補正時期
改正審査指南により、審査の段階では、全体意匠と部分意匠との間の変更、及び、同一の物品全体の1つの部分の部分意匠を他の部分の部分意匠へ変更することが認められない。
もしこのような変更が必要である場合、自発補正の段階(出願日から2か月以内)で自発補正を提出することと、又は、出願日から6ヶ月以内に国内優先権を要求することで新しい出願を提出する方法が考えられる。
(2.4) 単一性
改正審査指南により、部分意匠は、全体意匠の類似意匠と見なすことが可能である。
通常では、部分意匠は、類似意匠として全体意匠とともに1つの出願として提出することができないが、保護を求めない部分は物品のわずか一部しか含まない場合、保護を求める部分と全体意匠とは類似するであれば、1つの出願として提出可能である。
また、同一物品の2つ又は2つ以上の接続関係のない部分意匠は、機能又はデザインの面で関連がありかつ特定の視覚効果を形成しているのであれば、1つの意匠とすることができる(例えば、眼鏡の2本のテンプルのデザイン、スマートフォンの4隅のデザイン)。
ここで、眼鏡やスマートフォンの場合、各部分(テンプルや隅部など)が物理的に繋がらないとしても、機能やデザインの面で関連し、物品全体の視覚効果に寄与するため、1つの出願として提出可能である。
(3) 意匠の国際登録制度(ハーグ協定)
意匠の国際出願に関する改正部分は、ハーグ協定の規定に一致する。なお、実施細則第142条の規定により、国際事務局によって公開される意匠国際出願には設計要点を含む意匠の説明が含まれる場合、本細則第31条の規定に従って簡単な説明が既に提出されたものとみなされる。
このため、拒絶理由通知の発行を防ぐためには、上記規定に基づいて意匠国際出願の図面を準備すべきである。また、中国を指定国とする意匠国際出願の場合、意匠の説明に設計要点に対する説明、例えば、「本意匠は、形状(又は模様、又は色彩、又はそれらの結合)を特徴とする」を追加したほうがよい。
8.コンピュータプログラムに係わる特許出願の審査(編集:金 蘭)
改正された審査指南では、コンピュータプログラムに係る特許出願の審査について、「コンピュータプログラム製品」が新たな製品請求項の主題としてその特許適格性が認められ、ビッグデータおよびAIに係わる発明の特許適格性について対応の審査基準が決められ、アルゴリズムがシステムの内部パフォーマンスを向上させる場合、技術方案に対するアルゴリズムの寄与も考慮されるべきであると規定され、最後に、発明の進歩性を評価する際には、さまざまな方面におけるユーザーエクスペリエンスの向上が考慮されるべきであることが強調されている。
(1) 新たな請求項の主題
改正された審査指南は、第二部分の第9章のセクション5.2で、コンピュータプログラムに係わる発明の新しいタイプの請求項として、「コンピュータプログラム製品」を追加した。 その結果、コンピュータプログラムに係わる発明は、ステップで定義される方法の請求項と、手段+ファンクションの方式で定義されるシステムの請求項と、プログラムを格納するメモリとプログラムのステップを実行するプロセッサとで定義されるコンピュータ装置/デバイスの請求項と、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体の請求項と、コンピュータプログラム製品の請求項として作成できる。
(2) 適格性
特許法第2条第2項によれば、発明とは、製品、方法、またはその改良について提案される新しい技術案である。 技術案を構成するには、技術的課題、技術的手段、技術的効果のような三つの要素の基準を満たさなければならない。つまり、技術的手段を使用して技術的課題を解決することで技術的効果を取得しなければならない。
AI に関わる発明には通常、アルゴリズムまたはビジネスルールとメソッドが含まれる。審査の際に、技術的特徴と、アルゴリズム特徴やビジネスルールとメソッド特徴などとを切り離すべきではなく、請求項に記載されるあらゆる内容を丸1つとして考慮し、該当技術的手段、解決しようとする技術的課題及び技術的効果を分析しなければならない(特許法第2条第2項、審査指南の第二部分の第9章のセクション6.1.2)。
特に、審査指南は、アルゴリズム特徴を含む請求項によって限定されるどのような技術案が特許法第2条第2項の規定する技術案に属するとみなされるかを明らかにするため、三つのルールを規定しています。
ルール1:請求項に含まれるアルゴリズムの各ステップが、解決しようとする技術課題と密接に関連していると、例えば、アルゴリズムによって処理されるデータが特定の技術分野内で特定な技術的意味を有し、当該アルゴリズムの実行が自然法則を利用して技術的課題を解決するプロセスを直接に反映しており、技術的効果が得られると、当該請求項によって限定される技術案は、特許法第2条第2項に規定される技術案に該当する。
ルール2:請求項に係る技術案がディープラーニング、分類、クラスタリングなどの人工知能およびビッグデータアルゴリズムの改善に関連しており、当該アルゴリズムがコンピュータシステムの内部構造と特定の技術的関係を持ち、データストレージの削減、データ伝送量の削減、またはハードウェアの処理速度の向上など、ハードウェアの動作効率または実行効果をどのように向上させるかの技術的課題を解決できることで、自然法則に準拠するコンピュータシステムの内部パフォーマンスを向上させる技術的効果が得られると、当該請求項に係る技術案は、特許法第2条第2項に規定される技術案に該当する。
ルール3:請求項にかかる技術案が特定の技術分野のビッグデータを扱い、分類、クラスタリング、回帰分析、ニューラルネットワークなどを使用して、自然法則に準拠するデータの内部 (固有) の相関関係をマイニングし、それに応じて特定の技術分野におけるビッグデータの分析の信頼性または正確度をどのように向上させるかの技術的課題を解決し、対応する技術的効果が得られば、当該請求項に関わる技術案は、特許法第2条第2項に規定される技術案に該当する。
(3) 新規性・進歩性
新規性の審査にあたっては(アルゴリズム特徴またはビジネスルールとメソッド特徴とを含む請求項)、請求項に記載されているすべての特徴を考慮しなければならない。ここで、すべての特徴とは、技術的特徴に加えて、アルゴリズム特徴またはビジネスルールとメソッド特徴も含まれる。
進歩性の審査にあたっては(アルゴリズム特徴またはビジネスルールとメソッド特徴を含む請求項)、技術的特徴と機能的にサポートし合い、相互作用関係があるアルゴリズム特徴やビジネスルールとメソッド特徴と、上記技術的特徴とを全体的に考慮しなければならない。「機能的にサポートし合い、相互作用関係がある」とは、アルゴリズム特徴やビジネスルールとメソッド特徴と、技術的特徴とが密接に結合し、ある技術的課題を解決する技術的手段を共に構成し、それ相応の技術的効果を取得可能であることをいう。
請求項に記載のアルゴリズムが特定の技術分野に適用され、特定の技術的問題を解決できれば、当該アルゴリズム特徴が技術的特徴と機能的にサポートし合い、相互作用関係があると考えでき、アルゴリズム特徴が係る発明に採用される技術的手段の欠かせない要素となる。進歩性を評価する際に、技術案に対するアルゴリズム特徴の寄与も考慮する必要がある。
請求項のアルゴリズムがコンピュータシステムの内部構造と特定の技術的関係を持ち、データストレージの削減、データ伝送量の削減、またはハードウェアの処理速度の向上など、コンピュータシステムの内部パフォーマンスを改善でき、ハードウェアの動作効率または実行効果を向上できれば、アルゴリズム特徴と技術的特徴が機能的にサポートし合い、相互作用関係があると考えできる。進歩性を評価する際に、技術案に対するアルゴリズム特徴の寄与も考慮する必要がある。
請求項に記載されたビジネスルールとメソッド特徴の実現には技術的手段の調整または改善が必要であれば、ビジネスルールとメソッド特徴は技術的特徴と機能的にサポートし合い、相互作用関係があると考えできる。進歩性を評価する際に、技術案に対するビジネスルールとメソッド特徴の寄与も考慮する必要がある。
特許出願に係る技術案がユーザーエクスペリエンスの向上をもたらす可能性があり、ユーザーエクスペリエンスの向上が技術的特徴によってもたらされるか生み出され、または、技術的特徴と機能的にサポートし合い、相互作用関係があるアルゴリズム特徴やビジネスルールとメソッド特徴と、上記技術的特徴と合わせてもたらされるか生み出されることであれば、進歩性を評価する際に、ユーザーエクスペリエンスの向上を考慮しなければならない。つまり、アルゴリズム特徴やビジネスルールとメソッド特徴のみによってもたらされるか生み出されるユーザーエクスペリエンスの向上が、整体的な技術案の進歩性に全く寄与もない。なお、ユーザーエクスペリエンスの向上とは、ユーザーの感覚、感情、心理的向上であってもよい。
(4) 十分な開示
専利法第26条第3項には、特許又は実用新案に対して、その所属技術分野の技術者が実現できるように、明確かつ完全な説明を行うべきであると規定されている。そのため、明細書では技術的課題を解決するに採用される技術的手段を明確かつ完全に説明すべきである。当該技術的手段は、技術的特徴に加えて、アルゴリズム特徴またはビジネスルールとメソッド特徴を更に含む。
明細書には、技術的特徴と機能的にサポートし合い、相互作用関係があるアルゴリズム特徴やビジネスルールとメソッド特徴と、上記技術的特徴とが、どのように連携し、有益な効果を生み出すかを記載しなければならない。例えば、請求項にはアルゴリズム特徴が含まれる場合、抽象なアルゴリズムは特定の技術分野と組み合わせる必要があり、少なくとも1つの入力パラメータとそれに関連する出力の結果との定義を技術的分野の具体的なデータに関連しなければならない。ビジネスルールとメソッド特徴を含む場合、当業者が明細書に記載された内容に従って当該特許の技術案を実現できるように、技術的課題を解決するプロセス全体を詳細に記載、説明しなければならない。
明細書では、品質、精度または効率の向上、システムの内部パフォーマンスの向上など、既存の技術と比較した特許の有益な効果を明確かつ客観的に記述しなければならない。 ユーザーの視点から客観的にユーザーエクスペリエンスが向上された場合には、その旨を明細書で説明してもよいが、その際、どのように、そのユーザーエクスペリエンスの向上が発明を構成する技術的特徴と、当該技術的特徴と機能的にサポートし合い、相互作用関係があるアルゴリズム特徴やビジネスルールとメソッド特徴と共同でもたされる又は生み出されるかについても、説明しなければならない。
(5) 診断方法
疾病方法とは、生きている人体又は動物体の病因や病巣を識別、研究するための過程を言う(審査指南第二部分の第1章のセクション4.3.1)。
ある疾病診断に係わる方法が同時に以下に挙げられる2つの条件を満足していれば、疾病の診断方法に該当し、特許権が付与されてはならない。
A. 命を有する人体や動物体を対象とする、
B. 疾病診断の結果又は健康状況の獲得を直接な目的とする。
今回の改正で、特許出願できない診断方法の例から、「血圧測定方法」に係る例が削除されたことに注目してほしい。これは、血圧値が病気や健康状態ではなく、症状として考慮されることを意味する。
なお、全てのステップがコンピュータ等の装置によって実施される情報処理方法は、診断方法ではない。これは、「中間結果」のサンプルと処理方法は診断方法と見なさないことを意味する。なお、従来技術の中の医学知識及び当該特許出願の公開内容に基づいて取得された情報からは、疾病の診断結果又は健康状況を直接に得られない場合にのみ、当該取得された情報そのものが「中間結果」と見なされる。
9.特許権存続期間の補償(編集:丁 紫玉)
特許権存続期間の補償(PTA及びPTEを含む)の規定が最終的に決定され、2024年1月20日から施行され、第4回改正専利法の施行日である2021年6月1日以降の出願に適用される。特許権存続期間の補償は、新たに導入される制度であるため、明確でない点があるはずだので、実務上明らかにする必要がある。そこで、我々の経験に基づき、PTA制度及びPTE制度について紹介するので、参考にしていただきたい。
(1) PTA
簡単にいうと、中国特許庁が十分に迅速に審査手続を終了させる能力を有しているため、PTAは、実務上あまり見られない。以下の提案は、特定の出願がPTAを獲得したり、PTAの日数を増やしたりするのに役立つかもしれない。
第一に、特許権付与の公告日はPTAの計算に使用されるため、公告日が遅ければ遅いほど、PTAを獲得したりPTAの日数を増やす可能性が高くなる。特許権付与の通知書に規定された期限に近い時期に特許権の登録手続きを行うことで、公告日をできるだけ遅くすることができる。
第二に、出願書類の補正により特許権が付与された場合の複審手続の期間は、国家知識産権局による合理的な遅延の一つとして判断され、合計の遅延日数から差し引かれる。したがって、拒絶査定通知の後、出願書類の補正を避けることは、一つの対策となり得る。
第三に、出願人による不合理な遅延、例えば、オフィスアクションへの応答の遅延をできる限り避けるなどに注意する必要がある。
(2) PTE
PTEは、新薬の承認に伴い、発生することが多いである。良いPTE策略に適した準備をするため、以下のような提案がある。
第一に、新薬の承認日はPTEの開始日であるため、3ヶ月の期限に間に合わないことがないよう、企業の知財部が医薬品の管理機関と十分にコミュニケーションを取る必要がある。
第二に、世界的な新薬のみがPTEをトリガーする資格がある。実際には、中国で登録される前に海外で販売されている薬がたくさんあるが、これらの薬はPTE制度に適用されない。中国での新薬申請手続きの開始を加速させることは一つの対策となり得る。例えば、外国で新薬が承認される前に中国で新薬の申請を提出することを試みることである。
第三に、PTE制度は、「一つの薬・一つの特許・一つの適応症」規則を採用している。すなわち、新薬が承認されると、権利者は、1つの特許を選択して特許権存続期間を延長することができるが、延長された存続期間は、新薬の特定の適応症のみをカバーする。他の適応症は、他の特許のPTEによってカバーされる必要がある。これに対し、例えば分割出願のようなより多くの出願を提出することは、他の適応症を保護するのに有効である。
第四に、PTEを発生させるためにどの特許を選択するかについても考慮すべきである。製品、製造方法、医療用途の特許は適格な特許であり、中でも製品特許、特に化合物特許や医療用途特許は安定性が高いため、通常、第一選択となる。
最後に、PTE期間の長さは、数学的計算により、以下のように決定される。
出願日を起点として、以下の3つの状況が考えられる:
A 出願日から6年以内に薬品が承認された場合、PTEは発生しないが、薬品の有効期間の総計は14年以上となる。
B 出願日から6~11年以内に薬品が承認された場合、延長された特許の特許権存続期間は薬品の販売承認日から14年後に満了する。
C 出願日から11~20年以内に薬品が承認された場合、最大5年のPTEが特許権存続期間に追加される。
10.専利権評価報告書に関する改正(編集:張 濤)
専利権評価報告書に関して、改正専利法第66条第2項によれば、専利権評価報告書を請求できる主体が拡大される。この改正点は、権利侵害のリスクを十分に評価し、合理的な対抗措置を講じ、両方の当事者が専利権に対して合理的な期待を形成することに寄与し、また、紛争の解決を促進し、権利行使のコストを削減することができる。
専利法の上記改正に伴い、審査指南第五部第十章にはさらに以下のような改正内容が追加されている。
(1)実用新案権又は意匠権に対して譲渡、質権登録及び特許実施ライセンス契約登録を行う場合、国家知識産権局は必要に応じて専利権評価報告書の提出を命じることができる。
(2) 出願人は、初歩審査段階においてに国家知識産権局に対して評価報告書の作成を請求することもできる。
(3) 改正前の審査指南と異なり、改正審査指南においては、専利権評価報告書の請求主体から「潜在的侵害容疑者」が削除されている。これにより、「専利権者、利害関係者又は侵害容疑者のみが国家知識産権局に専利権評価報告書の作成を請求できる」ことになっている。この改正内容では「潜在的侵害容疑者」が削除されているが、「2.3 専利権評価報告書の請求書」という項の内容によれば、「専利権者が発した弁護士警告書やECプラットフォームクレーム通知書を受け取った組織または個人」も侵害容疑者として見なされるので、専利権評価報告書を請求する際には、関連証明材料を提出する必要がある。この角度からみれば、改正審査指南における「侵害容疑者」の定義には、実際に改正前の審査指南で定義されている「潜在的侵害容疑者」が含まれることが分かる。
11.開放許諾制度(オープンライセンス制度)(編集:王 瑞)
専利の実施を促進するため、2020年で改正された「専利法」の第50条と第51条に、開放許諾制度が新しい制度として導入される。
開放許諾制度とは、専利権が専利権を獲得した後、専利権の有効期間内において、任意の第三者に対し通常実施権を許諾する用意があることを宣言するかわりに、年金の減免等を受けられる制度である。専利権者は、その旨を公示しライセンシーを募集し契約を締結することができ、ライセンシーは、契約どおりにロイヤリティーを支払い、別途、専利権者と個別協議する必要がない。専利権者は、このような制度を利用して、専利権管理・活用の効率を向上させ、コストを低減させることができる。なお、開放許諾制度は、中国で専利権を獲得した外国権利者にも、適用できる。
実施細則第85条~第88条に手続きが、また、実施細則第100条に違反した場合の罰則規定がそれぞれ規定されている。
今回改正された審査指南には、専利開放許諾の詳細を以下の通りさらに規定している。
(1) 専利開放許諾の性質と利点
イギリス、ドイツなどの国で専利権者が開放許諾用の専利権の基本情報だけを説明すればよいと比較して、中国では開放許諾を行う専利権者は、国家知的財産局に対して書面を提出し、あらゆる事業体・個人に対し中国領域内での専利権の実施を許諾することを宣言する必要がある。その書面には、(1)専利番号、(2)専利権者の氏名又は名称、(3)ロイヤリティーの支払い方式及び算定基準、(4)実施許諾期間、(5)専利権者の連絡先、(6)開放許諾の条件を満たす旨の専利権者の宣誓、及び(7)その他の必要な事項、を記載する必要がある(実施細則第85条)。
従って、開放許諾制度の宣言は、契約法上のオファーとして理解されるべきであり、もし潜在的なライセンシーが受諾すれば(例えば、宣言に基づいてロイヤリティーを支払い、かつ、書面で専利権者に通知するなど)、専利権ライセンス契約が有効となる。ライセンスのタイプは通常実施権であり、実施の地域は中国である。このやり方によって、複雑なライセンス商談の時間やコストを抑えることができる。
専利権者又はライセンシーは、開放許諾契約の効力発生日から3ヶ月以内に、中国国家知識産権局に登録しなければならない。専利権者は、当該開放許諾の実施期間において、専利権の維持年金の減免を享受できる。年金の減免は、より多くの専利権の開放許諾を促進するのに有利である。
(2) 専利開放許諾の撤回
専利権者は、開放許諾を継続したくない場合、柔軟に開放許諾を撤回ことができる。
開放許諾の撤回についても同様に、専利権者が国家知的産権局に所定の書面を提出することで行われる。また、対象となる専利権を譲渡、放棄等する場合には、まず開放許諾を撤回する必要がある。
開放許諾の宣言及び撤回は、いずれも国家知的財産局の公告をもって効力が発生する。
(3) 開放許諾の制限
実施細則第86条によれば、下記のいずれかに該当する場合、専利権者は開放許諾をすることができない。
①独占的実施権・排他的実施権の有効期間内にある専利権、②権利帰属に関する争いがあり、又は人民法院の裁定により保全措置が取られており、既に関連の手続きが中止されている専利権、③規定通りに年金を納付していない専利権、④質権が設定されており、質権者の同意のない専利権、⑤既に期間満了した専利権、⑥既に全部無効審決が出られた専利権、⑦権利者は専利権評価報告書を提出していない実用新案権又は意匠権、⑧専利権評価報告書の結論が登録要件を満たしていないとされている実用新案権又は意匠権、⑨その他専利権の有効な実施を妨げる事情のある専利権、については、開放許諾の対象とすることができない。
また、共有にかかる専利権について開放許諾をするには、共有者全員の合意が必要である。
(4) 専利開放許諾のロイヤリティー
開放許諾のロイヤリティーについて、開放許諾を宣言する書面には、ロイヤリティーの算定根拠及び算定方法に関する2000文字以内の簡単な説明を付すべきことが規定されている。
また、ロイヤリティーの金額は、一般に、固定ロイヤリティーの場合には2000万人民元を超えず、ランニング・ロイヤルティーの場合には売上額の20%又は利益額の40%を超えないと規定されている。
開放許諾のロイヤリティーの確定について、審査指南には、詳細に記載されていないが、2022年10月で公布された「専利開放許諾ロイヤリティー概算ガイドライン(試行)」には、より合理的なロイヤリティーを概算するための指導的なガイドラインを設けている。例えば、ライセンサーの計算基準、計算方法、及び参照要素を提案している。
標準必須特許(SEP)の特許権者は、SEPを開放許諾特許として宣言することもできる。これにより、複雑で冗長なライセンス交渉を回避することもできる。標準必須特許ライセンスについて、ボトムアップ型のアプローチとトップダウン型のアプローチが利用できる。
(5) 専利開放許諾に関する警告・罰金
改正実施細則には、専利権者が、虚偽の資料を提供したり、事実を隠蔽するなどの手段により、開放許諾声明を行ってはならない不誠実な行為の禁止等が規定される(実施細則第88条)。
また、出願人又は専利権者が上記実施細則第88条の規定に違反した場合に、県レベル以上の専利執法責任部門が警告を発し、10万人民元以下の罰金を科すことができる(実施細則第100条)。
(6) 外国権利者又はライセンシーに対する注意喚起
外国人、外国企業、その他の外国組織、あるいは、香港、マカオ、台湾地域の組織は、中国で開放許諾制度を実施しようとする者は、「中華人民共和国技術輸出入管理条例」や「技術輸出入契約登記管理弁法」等に関する規定に適合しなければならない。
総じて言えば、中国は、現在、開放許諾制度を提供する少数の国の一つである。勿論、開放許諾制度は、専利を活用および管理する便利を企業に提供する制度である。
以上、開放許諾制度の要件や潜在的な影響について簡単に挙げたが、これらの変化や通常の業務への影響を即時に把握することは非常に重要である。今後、我々は、これらの改正を実践に応用することに関する発展に注目しつつ、我々の専門的な知識及び経験に基づいて、随時、共有させたいと思っている。