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専利法実施細則の最新改正の紹介

作者: | 更新しました:2024-01-23 | ビュー:

 2023年12月21日、中国専利法第4次改正が施行してから2年半後、専利法実施細則(以下、実施細則と略称する)の改正がようやく公布され、2024年1月20日より施行される。

 今回の改正には、具体的な規定や全体的な体系に関する大幅な調整や改善が含まれ、イノベーション活動の実際のニーズへの対応や、専利法の法制度の改善につながる重要な更新である。

 弊所は、今回の実施細則の改正におけるいくつのポイントをつかめ、簡単なコメントを下記のように提供する。


1.優先権の回復、優先権主張の追加・修正、引用による補充


(1)優先権の回復

改正後の実施細則により、正当な理由があれば、優先期間の徒過から2か月以内に優先権を回復可能となる。

実施細則の改正前に、優先期間を超えて出願する場合、優先権を主張するまたは回復することができなかった。実施細則の改正後に、優先期間徒過から2か月以内、即ち、優先日から14か月以内に、正当な理由があれば、優先権の回復を請求することにより優先権主張が可能となる。

また、優先権の回復は、PCT国際出願にも適用されるようになる。国際出願の出願日が優先期間徒過から2か月以内に、国際事務局が優先権の回復を認めた場合、中国移行出願について優先権の回復請求がされたものとみなされる。国際段階で優先権の回復を請求せず、或いは、優先権の回復請求が認められなかった場合、中国移行時から2か月以内に優先権回復の請求が可能となる。

なお、優先権の回復は、特許出願と実用新案出願のみに適用され、意匠出願に適用されないことに注意されたい。

また、正当な理由に対する審査はそれほど厳しいものではなく、応答期限を超えた場合出願権の回復を請求する際の理由と同じレベルと推測する。


(2)優先権主張の追加・訂正

改正後の実施細則により、優先日から16か月以内、または出願日から4か月以内に優先権主張を追加・訂正することが可能となる。

実施細則の改正前に、出願時にすべての優先権主張を提出しなければならず、出願日以降には、優先権を追加・訂正することができなかった。実施細則の改正後に、出願時にすくなくとも1つの優先権を主張した場合、優先日から16か月以内、または出願日から4か月以内に優先権主張の追加・訂正が可能となる。

なお、優先権主張の追加・訂正は、優先権の回復と同様に、特許出願と実用新案出願に適用され、意匠出願に適用されないことに注意されたい。


(3)引用による補充

改正後の実施細則により、出願日から2か月以内に、または国家知識産権局の指定期限以内に、引用による補充という制度にて優先権基礎出願に記載した内容を、その基礎出願の優先権を主張した出願に補充することが可能となる。

「引用による補充」という制度とは、出願日を維持したまま、優先権基礎出願の内容を現在の出願に補充することを指す。実施細則の改正前に、「引用による補充」という制度が認められなかった。出願時に、一部の内容を欠落、または誤って提出した場合、優先権基礎出願に記載された内容であっても、現在の出願に補充できなかった。実施細則の改正後に、出願時に、請求項、明細書、またはその一部の内容を欠落、または誤って提出した場合、欠落された内容または正しい内容が優先権基礎出願に記載されていれば、現在出願の出願日を維持したままこれらの内容を現在出願に補充可能となる。



2.新規性喪失例外規定の緩和


改正後の実施細則により、学術会議又は技術会議に参加する場合に新規性喪失しない猶予期間を享有できる範囲が拡大され、また、国際展示会、学術会議、及び技術会議に係る証明資料の要求も緩和される。

より具体的には、改正実施細則では、発明の初めての発表について、新規性喪失の例外として認可される学術会議及び技術会議を「国務院の関連主管部門又は全国的な学術団体組織によって開催される学術会議又は技術会議」から「国務院の関連主管部門又は全国的な学術団体組織によって開催される学術会議又は技術会議、及び国務院の関連主管部門によって承認される国際会議」に拡大した。

この改正により、中国国務院の関連主管部門によって承認される限り、IEEE、3GPPなどの国際組織によって開催される国際会議が認可されるかもしれない。しかし、実施細則又は改正された専利審査指南は、どのような国際的な学術会議又は技術会議が承認される会議となること、また、会議の開催地に対して地理的な要求があるのかを明確していない。これについて、国家知識産権局の書面な解釈及び/又は審査実務によってさらに明確する必要がある。

改正後の実施細則により、新規性喪失例外の適用を申請するため、認可される「国際展覧会」での発明の展示と認可される学術会議又は技術会議での発明の発表を証明する証明資料の要求も緩和される。

改正前には、証明資料に対する要求がより厳しく、出願人は、関連する国際展覧会、学術会議又は技術会議の開催機関によって発行された証明資料を提出する必要があったが、改正後には、証明資料について、開催機関によって発行される必要がなくなる。出願人は、発明の展示や発表、及び展示や発表の日付を証明できる証明材料(例えば、日付付きパンフレット)のみを提供すればよく、証拠面の要求が大幅に緩和される。


3.電子送達15日の郵送期間の廃止


改正後の実施細則により、書類の電子方式による提出と送達に係る提出日と送達日を明確になる。これは、実務上に非常に重要な変化をもたらす。2024年1月20日より、国家知識産権局によって出願人、権利者、無効審判請求人などの当事者に対して電子方式で発行される通知書及び書類について、15日の郵送期間がなくなり、結果的に、国家知識産権局によって発行される任意の通知書について、応答期間が、現在適用されている期間より15日短縮されることを意味している。

より具体的には、改正後の実施細則では、下記のことを明確になる。電子方式で提出される各書類については、国家知識産権局の電子システムに入った日が提出日となる。また、国家知識産権局によって電子方式で発行される各書類については、受取側の当事者の認めた電子システムに入った日が送達日となる。

改正実施細則に規定される電子書類の提出日は、現在の実務と同様であるが、国家知識産権局によって電子方式で送った書類の送達日に係る改正は、大きい変更である。現在の実務において、国家知識産権局が電子方式で書類を発行する場合には、郵送による発行と同様に、送達日について、書類の発行日に15日の郵送期間を加算して計算された日を送達日として推定される。改正後には、15日の郵送期間は、電子方式で送達される書類に適用できなくなる。代わりに、「当事者の認めた電子システムに入った日が送達日となる」。

 実務上、電子方式で送達される書類は、書類が発行されたほぼ同時に当事者の電子システムに到着し、すなわち、送達日は、発行日と同じになる可能性が高い。したがって、出願人にとって、今の15日の郵送期間がなくなり、実際の応答期間が短縮される。


4.誠実信用原則に基づく審査範囲の変更


専利出願行為を規範化し、専利審査の質量と効率を高めるために、改正実施細則において、誠実信用原則が、初歩審査、実体審査、復審審判、無効審判を含むすべての審査及び審判手続に正式に導入される。また、新規性又は進歩性の明らかな欠如や従来設計に対する明らかな区別の欠如に関する審査は、実用新案出願及び意匠出願の審査範囲にも含まれる。

専利出願はいずれも真実の発明・創造活動に基づくべきであって、虚偽又は欺瞞があってはならない。発明・創造活動そのものの虚偽が出願の拒絶理由となるだけでなく、専利出願に係る手続において誠実信用原則違反があった場合にも、当該手続の取消や未提出とみなされることになる。

特に、審査官は、審査手続における拒絶理由としても、無効手続における無効理由としても、職権により自発的に誠実信用原則を考慮することに、留意すべきである。

また、実用新案出願の審査において、新規性又は進歩性の明らかな欠如は審査内容となる。初歩審査において、審査官は把握している先行技術情報に基づき、実用新案出願は明らかに新規性又は進歩性が欠如するかについて審査を行わなければならない。また、意匠出願についても、先行意匠又は先行意匠の組み合わせと比べて明らかな区別を有するかを審査しなければならない。

無効審判では、現時点で「誠実信用原則」違反の理由に基づく無効審決が出されていないが、今後、無効審判の請求人としては「誠実信用原則」に関する要素が考慮され、無効理由に組み込まれるケースが出てくると予測される。


5.意匠に関する規定の変化


(1)部分意匠出願の出願書類

改正後の実施細則によると、部分意匠を出願する場合、製品全体の図面を提出する上で、破線と実線との組み合わせ、又は、他の手段により保護を求める内容を表明すべきである。

また、破線と実線との組み合わせ以外の手段により保護を求める内容を表明する場合、簡単な説明の部分に保護を求める内容を記載すべきである。


(2)意匠の国際登録制度に関する特別な規定

中国が2022年5月5日に「ハーグ協定」に加盟することに伴い、改正後の実施細則には、「意匠の国際登録制度に関する特別規定」が新たに追加される。

そこで、優先権主張、新規性喪失の例外規定、分割出願、中国での出願日、登録手続き、国際出願における簡単な説明の取り扱いなどの内容が規定されている。

なお、「改正専利法及びその実施細則の施行に関する審査業務処理に係わる経過措置」により、この特別規定は、2022年5月5日以降の国際意匠出願に適用される。


(3)意匠出願の国内優先権主張

改正後の実施細則により、意匠出願について、中国国内優先権の主張ができるようになる。特に特許や実用新案の図面におけるデザーンに基づいて優先権を主張できる。


特許権存続期間の補償(PTAとPTE)


改正後の実施細則には、「特許権存続期間の補償」に関する規定が新たに追加され、特許権存続期間の調整(PTA)と特許権存続期間の延長(PTE)が含まれている。


(1)特許権存続期間の調整(PTA)

PTAを請求できる期間は、特許権付与の公告日から3か月以内である。弊所の経験によると、特許権付与の公告は、特許権の登録手続き及び関連費用の支払手続き後の20~30日以内に行われる。そのため、出願人はできるだけ遅くまで特許権の登録手続きを行えば、PTA請求の決定や準備の時間を増やすことができる。

PTAは、下記の式により計算される。

PTA=合計の遅延日数−国家知識産権局(CNIPA)による合理的な遅延日数―出願人による不合理な遅延日数

ここで、

①合計の遅延日数は、出願日(*)から4年に満了且つ審査請求日(#)から3年に満了した日から公告日までの期間である。

②CNIPAによる合理的な遅延には、出願書類の補正により特許権が付与された場合の複審手続の期間、中止手続の期間、保全措置の期間、行政訴訟手続の期間などが含まれる。

③出願人による不合理な遅延には、拒絶理由への応答期間の延長、遅延審査制度を利用したことによる遅延、引用による補充による遅延、早期処理を申請しないPCT出願について30か月の移行期限日と実際の移行日の間の期間などが含まれている。

*ここでいう出願日は、PCT出願について移行日、分割出願について分割出願の提出日を指す。

#ここでいう審査請求日は、審査請求日、審査費用の納付日、出願の公開日のうち、もっとも遅い日を指す。

特実同日出願制度を利用した特許出願については、PTAの請求ができない。


(2)特許権存続期間の延長(PTE)

PTE請求の対象となる特許は、新薬に係る製品特許、製造方法特許、及び医薬用途特許が含まれている。

審査指南では、対象となる新薬とは、革新的な薬品(世界の新しい化学品、ワクチン、生物製剤)、既知の化学物質の新しい塩/エステル、改良された細菌またはウイルス株を有する新しいワクチン、および新しい適応症がある薬品を指す。

中国で新薬の薬品販売承認申請を提出する前に海外で販売された薬品は、中国のPTE制度によれば適格の新薬とならないことに注意されたい。

PTEを請求する期間は、新薬の販売承認を取得した日から3か月以内であり、以下の3つの要件が満たす必要がある。 

 ・ 1つの新薬について複数の特許がある場合、1つの特許だけに関してPTEを請求できること

 ・ 1つの特許が複数の新薬に係る場合、1つの新薬だけに関してこの特許についてPTEを請求できること

 ・ 特許が有効であり、PTEが受けたことがないこと

PTEは、下記の式により計算される。

PTE=薬品の販売承認の取得日−特許出願日−5年

また、補償期間は5年を超えない。

新薬販売承認が取得された後の特許権の合計存続期間は14年を超えないため、PTE期間は14年の上限要件が満たせるように短縮されることに注意されたい。

また、PTE期間中、特許の保護範囲は、販売承認が取れた新薬、さらに、当該新薬について承認された適応症に制限されると規定されている。


(3) 審査結果

PTAまたはPTEの要件を満たす場合、期間補償が許可されるが、満たしていない場合、期間補償請求が拒絶される。審査指南の更なる規定によれば、拒絶の決定がなされる前に、少なくとも1回の意見陳述および/または補正の機会が与えられる。

特許権者がこの決定に不服がある場合には、CNIPAに複審を請求すること、または裁判所に訴訟を提出ことができるはずである。


外国企業にとって、今回の改正実施細則により、中国で高質な専利権の取得と権利保護にはより良いチャンスが与えられる。弊所は、改正内容についてより深くて細かい検討・分析を行い、権利取得、無効審判、侵害訴訟に関する弊所の経験を活かして、実務上のアドバイスを引き続き提供する。



(注:中国の「専利」は、特許、実用新案、意匠の3者が含まれるものである。)