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退職従業員の職務発明に関わる特許出願権の帰属に関する最高裁判所の判断基準 -------(2021)最高法知民終1151号

作者:丁萌 | 更新しました:2023-02-16 | ビュー:

 最近、中国最高裁判所は、中冶南方連続鋳造技術工程有限責任会社(以下、中冶南方社という)と北京数鈺科学技術発展有限会社(以下、数鈺社という)、白居氷氏との特許出願権の帰属紛争事件において、職務発明に関わる特許出願権の帰属の判断基準について具体的に説明した。従業員が元の会社から退職して1年以内に行った発明は、その従業員が元の会社において担当していた本来の職務又は任務と、具体的な技術問題、技術案、技術手段、技術効果に差異があるが、技術分野、技術テーマ、技術構想などの面で関連性がある場合、「中国特許法実施細則」第12条第1項第3項に規定の「元の会社において担当していた本来の職務又は元の会社から与えられた任務と関係性のある発明創造」に該当すると認定しなければならないとの意見を示した。この意見は裁判所が同種の事件を審理することに重要な指導的意義がある。 

 2020年8月21日、北京知的財産権裁判所は中冶南方社が数鈺社、白居氷氏を訴えた特許出願権の権利帰属紛争事件を受理した。係争特許出願は出願番号が201910721305.4で、発明者が白居氷氏であり、数鈺社により2019年8月6日に出願したものである。中冶南方社は係争特許出願の出願権が中冶南方社に帰属するとの認定を請求した。

 本件の焦点は係争特許出願が職務発明に属するかどうかである。それを判断するには、「特許法実施細則」第12条に規定されている「所属会社の任務を遂行する中で行った発明」または「主に所属会社の物質技術条件を利用して完成した発明」に属するかどうかを審査しなければならない。裁判所は双方が提出した証拠に基づいて、係争特許出願の内容や、被告白居氷の中冶南方社での勤務状況、職責あるいは仕事内容と係争特許出願との関連性を審理した。

 白居氷は2006年に中冶南方社に入社し、2019年4月1日に退職し、2019年4月18日に数鈺社を設立した。裁判所は、2006年4月から2019年4月1日まで、白居氷は中冶南方社の特許法上の「会社の従業員」であると認定した。白居氷は在任中、核心メンバーと責任者として一連の研究開発プロジェクトに参加した。係争特許出願の技術内容を見ると、白居氷が参加した研究開発プロジェクトとこれらの研究開発プロジェクトに基づく他の関連特許はすべて金属鋳造技術分野であり、係争特許出願の技術的特徴の一部は上記他の関連特許の技術的特徴と互いに対応することがわかる。

 これら事実に基づいて、係争特許出願は白居氷の本来の職務及び開発成果に関わる技術テーマと同じで、技術案が近いため、係争特許出願と白居氷の本来の職務との間に密接な関連性があることが分かる。そのため、係争特許出願は、「従業員が退職、元の所属会社から転職した後、又は労働や人事関係が終了してから1年以内になしたもので、元の所属会社において担当していた本来の職務又は元の所属会社から与えられた任務と関係性がある発明」であり、職務発明に属すると裁判所は認定した。そして、北京知的財産権裁判所は係争特許出願の出願権が中冶南方社に帰属するとの判決を下した。

 数鈺社、白居氷氏はこの一審判決に不服し、最高裁判所に控訴し、一審判決を取り消し、係争特許出願の出願権は数鈺社が所有することを請求した。

 最高裁判所が審理した後、係争特許出願は白居氷の中冶南方社における本来の職務及びその成果とは、技術分野、技術テーマと技術構想などの面で関連性があると認めた。法によって、中冶南方社の職務発明に属し、係争特許出願の出願権は中冶南方社が所有するものであると認定した。最高裁判所は2022年11月6日に終審判決を下し、一審判決を維持し、数鈺社、白居氷の控訴請求を棄却した。