特許権付与手続きにおいて、出願人が請求項を補正する際に、追加された内容が元出願書類に明確に記載されていないが、暗黙的に開示されている場合、当該補正は特許法第33条の規定に違反せず、許可されるべきである。
【案件の内容】
成都植源機械科技有限公司(以下、植源公司と略称する)の特許出願(出願番号が201611044305.8であり、以下は本願と略称する)について、原審査部門は請求項1~6が進歩性を具備しないことを理由として本願を拒絶した。植源公司は復審手続において請求項1を補正し、「β<α」等の内容を追加した。国家知識産権局は、追加された「β<α」は元明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲を超えており、特許法第33条の規定に合致しないと認定し、拒絶査定を維持する決定を下した。植源公司はこれを不服として、北京知識産権法院(以下、第一審法院と略称する)に訴訟を提起した。第一審法院は、植源公司の補正内容は元明細書及び特許請求の範囲に記載された内容から直接で疑義なく確定することができ、特許法第33条の規定に合致すると認定し、係争決定を取り消し、国家知識産権局が改めて決定を下すよう判決を下した。国家知識産権局は判決を不服として、最高人民法院に上訴した。最高人民法院は2022年7月13日、上訴を棄却し、原判決を維持するよう判決を下した。
【最高院の裁判意見】
最高院は第二審において以下のように認定した。
「元明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲」について、当業者の視点から、元明細書及び特許請求の範囲に開示された技術内容に基づいて確定すべきである。元明細書及び特許請求の範囲の記載範囲には、元明細書及びその図面と特許請求の範囲が文字又は図形等により明確に表現されている内容と、当業者が元明細書及びその図面と特許請求の範囲をまとめて直接で明確に導き出すことができる内容とが含まれている。追加された内容が既に元の出願書類によって暗黙的に開示され、かつ、当業者が元の出願書類を読むことにより、発明の目的と合わせて、直接で明確に導き出す可能な内容に属する場合には、当該補正は許可されるべきである。
本件において、元の明細書及び特許請求の範囲には、βとαの関係が明確に記載されていないが、β>α及びβ=αの場合には、いずれも明細書に記載された圧力が高ければ高いほど、自己密封性能が良いという技術的効果を実現することができない。そのため、β<αは出願書類に記載されていないが、当業者が元の明細書及び特許請求の範囲から直接で明確に導き出すように、β<αの場合にのみ、本願の明細書に記載された技術的効果及び本願の発明目的が実現される。よって、β<αは既に特許出願書類に暗黙的に開示されている。
以上により、植源公司が本願に対する補正は元の明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲を超えず、特許法第33条の規定に合致している。