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進歩性判断のよくある問題に関する検討

作者:张祥、曹瑜 | 更新しました:2016-09-26 | ビュー:

特許権の認定には、進歩性を判断するとき、以下のようなもっともらしい問題がよくあるので、進歩性判断は議論点と問題点となってきた。

1.「予想できない技術効果」について

1.1 どれほどの進歩は、「予想できない技術効果」を有すると認められるか?

1.2 「予想できない技術効果」を明細書に記載する必要はあるか?

1.3 「一方通行」という欧州特許法における制限的規定を中国に導入する必要はあるか?

2.「有限(回数)の実験」により、進歩性を判断することはできるか?

3.従来技術とは、引用文献全体を指すか、それとも、引用文献における1つの技術案を指すか?また、従来技術に基づいて進歩性を判断するとき、従来技術における1つの技術案の示唆を基にするか、それとも、引用文献全体の示唆を基にするか?

 

上記問題について、筆者は以下のように検討した。

1.1 「予想できない技術効果」の中心は、「技術効果」で示された数値又は規準ではなく、「予想できない」こと、即ち予想以上になることである。「予想できない」について判断するとき、「技術示唆」の点から判断すべきではないかと思う。実務において、「予想できない技術効果」を主張するとき、単に技術効果そのものを論点とすることよりも、技術示唆/技術案の点から分析することの方は説得力があるのであろう。

1.2 「最高人民裁判所知的財産権案件の年度(2012)報告書」に、「進歩性を判断するとき、特許出願人は出願日の後で比較実験の数値を追加し、本特許の技術案が予想できない技術効果を有することを証明しようとする場合に、該実験の数値を認める前提として、証明しようとする技術効果が出願当初の明細書に明確に記載されているものでなければならない」と記載されている。本稿では、進歩性判断に実に引用された1つ又は複数の従来技術と比べて本特許(特許出願)が予想できない技術効果を有することが明細書に記載されていなければ、「証明しようとする技術効果が出願当初の明細書に明確に記載されている」と認められない、という要求は妥当ではないと考える。実は、特許の明細書に、引用文献と比べて予想できない技術効果がちょうど記載されている可能性は低いからである。また、「特許権による保護を代償として、発明者に対して発明内容の公開を求める」という要求に応じて、明細書には、少なくとも、対応している技術効果が概略的に記載されている。

1.3 欧州特許庁は「予想できない技術効果」による進歩性を大体認めるが、制限的規定がある。当業者にとって、有利な技術効果を果たす特徴が唯一又は蓋然的なものであり、即ち他に選択の余地がなく「一方通行(one-way street)」となる場合には、このような有利な効果が予想できないものであっても、進歩性は認められず、このような予想できない有利な効果は、付随的な「ボーナス効果」にすぎない。「一方通行」という制限的規定を中国に導入するか否かは、慎重に検討すべきである。まず、特許性の点からみると、他に選択の余地がなくて従来技術にもない特徴であれば、自明とは言えないであろう。次に、技術効果は特許による経済的利益と緊密に関連しており、導入するか否かは、我が国現在の経済状況及び望まれる発明の全体像を考えながら検討すべきである。

 

2.「有限(回数)の実験」を進歩性判断に導入することは妥当ではないと考える。理由は以下の通りである。

まず、「有限回数の実験」は、審査指南の関連規定に記載の「有限の実験」と実質的に異なっている。「有限回数の実験」は回数を強調する一方、「有限の実験」は実験の範囲又は機能を強調する。

次に、「有限の実験」により進歩性を判断することは、「法に照らして行政手続を行う」という規定に合致していない。審査指南には、「有限の実験」が「突出した実質的な特徴」の定義に記載され、続いて審査指南に進歩性に関する審査手法が記載された。審査指南には、「有限の実験」を直接に進歩性判断に導入することについて示唆がされていない。

そして、「有限の実験」により進歩性を判断することは、審査指南の教示に反している。審査指南には、「発明の創造の間に考案者が苦労を尽くしたか、或いは容易に得られたものかは、当該発明の進歩性の評価に影響を及ぼすべきではない」と記載されている。よって、「有限の実験」により得られるか否かは、進歩性の有無と蓋然的な関係がない。

最後に、進歩性判断の中心は技術示唆の判断であり、「有限の実験」により得られるか否かの判断よりも、「有限の実験」を行う「動機付け」があるか否か、いわゆる予想可能性の判断の方は重要である。つまり、「could(できるか否か)」の問題ではなく、「would(しようとするか否か)」の問題である。

 

3.「従来技術」とは、引用文献における1つの具体的な技術案であるが、進歩性を判断するとき、以下の理由で、引用文献全体を参照しながら従来技術の示唆を評価すべきである。まず、発明者が発明を創造する点からみると、発明のレベル・進歩性を客観的に評価するために、技術専門者が発明を創造する過程をできる限り模擬しながら進歩性を判断すべきである。技術専門者が技術文献(引用文献)を読むとき、引用文献の他の内容を無視して、ある段落に記載のある技術案、さらにある技術的特徴をすぐに抽出することができないであろう。次に、当業者の立場からみると、当業者とは、「発明が属する技術分野における全ての一般的な技術的知識を知っており、その分野における全ての従来技術を知り得る」人である。引用文献の内容は全て従来技術であるので、引用文献全体を考慮しなければ、従来技術のレベルを理解して本発明との相違点・一致点を抽出することはできない。