知財情報

民事訴訟証拠規定の最新改正の解説

作者:岳雪蘭 | 更新しました:2020-04-29 | ビュー:

証拠というものは、訴訟の進展を左右する極めて重要であること、言うまでもない。中国では、民事訴訟法の原則上の規定のほか、2001年に、「民事訴訟証拠に関する若干規定」(以下、証拠規定という)が公布され、民事訴訟上の証拠規則を統一且つ全面的に定め、長年わたって審判実務において重要な役割を果たしてきた。

2012年に民事訴訟法が全面的に改正され、2015年に、「民事訴訟法の適用に関する司法解釈」(以下、民事訴訟法司法解釈という)も施行され、証拠に関わる内容が大きく変更した。さらに、近年の社会や経済の著しい発展により、2001年の証拠規定の内容が現実に合わないことも出てくる。

これら事情を考慮し、昨年の年末に、最高人民法院は、証拠規定を改正することを決めた。改正後の証拠規定が202051日より正式に施行される。

2001年の証拠規定と比べて、改正後の証拠規定は100条文あるが、元の条文として保留したのがわずか11条、他の内容はすべて改訂や新設したものだ。今回の改正は、18年ぶりの全面改正として注目される。

ここで、知的財産案件に関連性の高い内容だけについて簡単に解説する。

 

1. 文書提出命令

改正後の証拠規定において、第45条~第48条では、「文書提出命令」という制度が新たに設けられる。

文書提出命令とは、文書が相手当事者によりコントロールされる場合、立証責任を負う当事者は、かかる文書の提出を求めるよう、人民法院に対して申立てをすることができ、その申立てが認められる場合、人民法院は、相手当事者に対して、文書提出命令を発する制度である。

この制度は、民事訴訟法司法解釈の第121条に初めて導入され、改正後の証拠規定では、更に具体的な適用ルールが定められる。

例えば、第45条には、文書提出命令申立書の記載内容として、かかる文書のタイトル又は内容、この文書に基づいて証明しようとする事実及びその事実の重要性、相手当事者はこの文書をコントロールすると思われる根拠及びこの文書を提出すべき理由など、明確に規定される。

また、第47条によれば、文書をコントロールする当事者は下記の文書を提出しなければならない。①文書をコントロールする当事者は訴訟において引用した文書、②相手当事者の利益のために作成した文書、③相手当事者は法律の規定に基づいて閲覧、獲得する権利を持っている文書、④帳簿、ソース・ドキュメント、⑤その他人民法院が提出すべきと思われる文書。

 もし、文書をコントロールする当事者は正当な理由がなくて人民法院の提出命令を拒否すれば、第48条の規定によって、その相手当事者が主張した文書の内容は真実なものであると認定される。

特許権侵害案件について、この「文書提出命令制度」に似たような制度が2016年に施行した「特許権侵害紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(司法解釈[20161号)にすでに設けられる。

この司法解釈の第27条には、「権利者は侵害者の取得した利益に関する初歩的な証拠を既に提供したが、特許権侵害行為に関する帳簿や資料が主に侵害者に握られている場合、人民法院は侵害者が該帳簿、資料を提供するよう命じることができる。侵害者は正当な理由なく提供せず、又は偽の帳簿、資料を提供した場合、人民法院は権利者の主張と権利者から提供された証拠に基づき、侵害者の侵害によって取得した利益を認定することができる」。実務上、この第27条の規定に基づいて、侵害者に帳簿などを提出するようと命じる案件がたくさんあった。

即ち、特許権侵害案件において、特に賠償金額を計算する際に、この「文書提出命令」を申立てることがすでに可能だが、改正後の証拠規定により、文書提出命令の適用対象は、帳簿だけではなく、第47条に記載したほかの文書も含めるようになった。それによって、権利者にとって証拠収集の手段が増え、収集できる証拠の範囲も広げ、立証が難しい問題がある程度解決できる。

2. 電子データの取扱い

技術の著しい発展に伴い、証拠の存在形式も変化してくる。特に、電子化が進行している中、昔の紙面や現物のかたちで現れた情報は、電子媒体に記録され、電子データのかたちで保存することが増えている。

中国では、2005年に施行した「電子署名法」には、「当事者の協議により電子署名、データメッセージが使われる文書について、電子署名、データメッセージが使われることだけによってその文書の法律効力を否定してはいけない」と定め、電子データの法律上の効力を明確に認めるようになった。

更に、2012年改正した民事訴訟法では初めて、電子データを証拠の1種類として正式に認めた。

改正後の証拠規定によって、電子データには、①ウェブサイトのようなネットワークプラットフォームにおいて発表された情報、②電子メールなどのネットワーク上の通信情報、③登録情報などの履歴情報、④ドキュメントなどの電子ファイル、⑤その他ディジタルの形式で記録、処理、発送され、案件の事実を証明できる情報、が含まれる(第15条)。

電子データは改ざんしやすい特性を持っているので、その真実性の判明が訴訟上の難題である。今までの裁判経験を参考し、第93条では、電子データの真実性を判明する際に、いくつ考慮される要因が示される。例えば、①電子データを生成、保存、発送するコンピュータシステムのハードウェア、ソフトウェア環境の完備性、安定性、稼動状態、②電子データを記録、発送、ピックアップするの主体と方法の信憑性、③電子データは、正常なビジネス活動において生成されるか、などが考慮される。

このような判断基準があるが、それに基づいて電子データの真実性を究明するのがまだ難しく感じる。そこで、第94条では、いくつの特別な状況で、人民法院は電子データの真実性を推定できると定める。例えば、電子データは、その電子データを記録・保存する中立した第三者プラットフォームにより提供されたり、電子データの内容が公証機関により公証されたりとすれば、反対する証拠がない限り、その電子データは真実なものと認定する。

実務上、公証人の立会いで電子データを収集することは、証拠収集の手段としてすでに一般的に使われる。今回の改正で、第三者プラットフォームより提供する電子データの真実性も認めやすくなるため、今後、例えば、タイムスタンプやブロックチェーンなどの技術を利用して電子データを収集することが可能になる。電子データは証拠として訴訟に使われることが容易になり、案件の事実究明に有利である。

 

3. 司法鑑定

知財案件の中、高度な技術に関わり、専門的な知識を要するケースが少なくない。その場合、特定な技術バックグライドを持っている専門家により司法鑑定を行い、技術的な内容を確定する必要がある。

司法鑑定の手続きや鑑定意見の取扱いについて、2001年の証拠規定にはすでに定められるが、現実上、司法鑑定の運用には、まだ様々な問題がある。例えば、鑑定時間が長すぎで案件がなかなか進まないことや、鑑定手続きには不備があり鑑定結果が採用できないこと、鑑定機関との意思疎通が足りず鑑定意見が案件の争点から外れるなど、いずれも、当事者に過剰な負担をかけり、案件のスムーズな審理を妨げることになる。

これら問題を解消するため、改正後の証拠規定では、司法鑑定に関する内容を大きく調整し、いくつ新たな条文が設けられた。

まず、裁判官の司法鑑定への関与度を高める。案件の事実が鑑定によって証明する必要がある場合、裁判官は当事者に対してそのことを釈明し、当事者が鑑定を申請する期間を指定する(第30条)。また、鑑定機関の選定や鑑定意見をめぐる証拠調べは、いずれも裁判官主導のもと行う。これにより、裁判官は案件の事実や争点を把握するうえで鑑定を依頼することになり、的外れの鑑定意見をある程度防止できる。

次に、鑑定人の負うべき義務が増える。鑑定期限が鑑定依頼書に明確に記載し、所定期限まで鑑定が終わらない場合、鑑定費用を返還させることも可能である(第35条)。鑑定期限を厳しく要求することにより、訴訟を早期に解決するのを図る。また、鑑定人は鑑定を行う前に客観、公正、誠実に鑑定を行うと承諾する義務が付けられ、当事者は鑑定意見について異議がある場合、鑑定人が出廷してその異議を回答する義務も規定される。

また、鑑定手続きに関する内容も昔より詳しくなる。例えば、鑑定人に対する依頼状には、鑑定事項、鑑定範囲、鑑定目的、鑑定期限などの項目の記入が必要だと規定され、鑑定人は鑑定内容を正しく理解したうえで、鑑定を行うことが可能になる。

 

4. 国外証拠

2001年の証拠規定によれば、当事者は人民法院に提出した証拠が外国で形成されたものであれば、この証拠について、所在国の公証機関により証明すると共に、所在国における中国大使館・領事館の認証もしなければならない。

 近年、グローバル化の進化により各国の連携が一層緊密になり、国際的な取引が活発になる。そして、外国当事者が中国で訴訟に参加することも増えている。そのため、訴訟で使われる証拠は外国で形成されるものが少なくない。これらすべての証拠について、所在国の公証・認証手続きを行えば、当事者にとって多大な負担になり、訴訟費用の高騰にもつながる。

 この事情を考慮し、2012年の民事訴訟法と2015年の民事訴訟法司法解釈では、外国人は中国で訴訟に参加する場合、人民法院に提出する身分証明書類や委任状は、公証・認証手続きが必要であると規定するが、他の証拠について、公証・認証の手続きが規定されない。

 改正後の証拠規定は、より明確に、外国で形成された証拠は、公文書について、所在国の公証機関による証明が必要であり、身分関係に関わる証拠であれば、所在国の公証機関による証明と、中国大使館・領事館の認証が必要であると、定める(第16条)。

 その他の証拠について明確な規定がないが、所在国の公証・認証手続きが不要と理解できる。

 これは、身分関係に関わる事実は、社会の基本的な倫理に関連するので、外国で形成された証拠について厳しく審査する必要がある。また、外国の公文書について人民法院が職権でその真実性を確認するのが困難なので、所在国の公証機関による証明が必要になる。その他の民事法律関係を証明する証拠は、証拠調べの段階でその証明力を確認することができ、所在国の公証・認証手続きが必要ではないとの考え方である。

 これにより、中国国外の証拠を使いやすく、証明手続きが簡単になる。特に外国当事者にとって有利だといえる。

 

5. まとめ

 今回改正の証拠規定では、近年の社会、経済、技術の発展状況を考慮し、長年の裁判実務経験を参照しながら、様々新しいルールが設けられる。改正後の証拠規定によれば、証拠収集がより便利になり、立証手続きも簡易になり、当事者の負担をある程度軽減する。

 改正後の証拠規定は、202051日より正式に施行し、その時点で審理中の案件は原則上改正後の証拠規定を適用する。また、民事訴訟法司法解釈にすでにある内容について証拠規定では規定しないので、実際に案件を処理するとき、証拠規定だけではなく、民事訴訟法、民事訴訟法司法解釈の内容も合わせて考慮する必要がある。

 

主な参考資料:

1.最高人民法院「民事訴訟の証拠に関する若干規定」(2019年改正)

2.最高人民法院「民事訴訟の証拠に関する若干規定」(2001年公布)

3.中国民事訴訟法(2012年改正)

4.最高人民法院「中国民事訴訟法の適用に関する解釈」(司法解釈〔20155号)

5.「民事訴訟証拠規定に関する10個重要問題への理解とその適用」