知財情報

情報提供について

作者:謝辰 | 更新しました:2020-07-01 | ビュー:

近年、企業の知財意識が高まりつつある。そして、競争相手の特許状況を監視しながら、自社の研究開発戦略を調整することが多くなる。自社の製品が他社特許の保護範囲内に入る可能性があると判断すると、開発方針を調整し、設計変更などによって権利侵害のリスクを回避することができる。一方、特許無効請求を提出して相手の特許権を無効させて一括に問題解決することも考えられる。


ただし、自社の製品に対して脅威となるのは、ただ出願段階にある特許出願であれば、当該特許出願が登録できるるかどうかや請求項の最終的な保護範囲がまだ明確になっていないため、特許出願によって会社の研究開発の方針を変更する必要がない。より有効な方法は、情報提供を行なうことによって相手の特許出願の登録を阻止することである。


以下、ご参考のため、情報提供手続き及び実務上の注意点について簡単に説明する。

1、法律根拠


情報提供制度は、中国語で「公衆意見」と呼ばれる。『専利法実施細則』第48条によると、「特許出願の公開日から特許権付与の公告日まで、如何なる人でも専利法の規定に合致しない特許出願について国務院専利行政部門に意見を提出し、かつ理由を説明することができる」と規定される。これは、情報提供制度の法律根拠とする。


また、『専利審査指南』の第二部分の第8章の第4.9節「公衆意見の取り扱い」に、「如何なる人でも、専利法の規定に合致していない特許出願について専利局へ提出した意見は、実体審査の時に審査官が考慮するように、当該出願のファイルに保存されるべきである。審査官が特許権の付与通知を発行した後に公衆意見を受けると、考慮しなくてもよい。公衆意見に対する専利局の処理は、意見を提出した公衆に通知する必要がない。」と規定されている。


上記規定から分かるように、情報提供された内容は、実質的に、審査官が実体審査において参考するためのものである。また、情報提供ができる者について制限はなく、特許権付与通知を発行する前に審査官は情報を受けることを確保できれば、特許出願が公開される後の審査段階でいつでも提出できる。なお、情報提供の対象は、特許出願に限られる。実用新案及び意匠出願について、実体審査がなく、登録後に公開されるため、情報提供の機会がない。


審査官が情報提供の内容を考慮しなければならないという強制的な規定がないが、実務経験からみて、情報提供によって、審査官は、従来技術を調査する作業を軽減することができ、審査作業に対して客観的に一種の助けとなる。実務では、ある出願に対して初めて情報提供を行なえば、審査官は、情報提供の内容を拒絶理由通知書に盛り込めることが多い。特に、情報提供の際に引例を引用すると、審査官は拒絶理由通知書で同じ引例を引用する可能性が高い。

2. 情報提供の利点


(1)コストが低い

同様に権利侵害のリスクを回避する手段として、競争相手の特許に対して無効請求を提出することに比べ、特許出願の段階で相手の出願について情報提供を行なうことは、コストがより低い。その理由は下記のように考えられる。


まず、情報提供は、なんの庁費用も発生しない。さらに、代理事務所に依頼して情報提供書類を準備するとしても、最も重要な問題(一般的に新規性と創造性)のみについて述べることができ、無効請求書のようにすべての無効理由を主張する必要がないので、弁理士がかかった時間及び発生した費用は無効案件よりはるかに低い。


(2)秘匿性が良い

匿名で、そして、通常紙ベースで情報提供を行なうため、情報提供者の身分が暴かれることがない。そのため、審査官でも、出願人でも、誰が情報提供をしたのかは分かることができない。また、一般的に、審査官は、情報提供があったことを出願人に通知しないので、出願人はこの情報提供のことさえ知らない可能性が高い。


情報提供の良好な秘匿性により、競争相手との正面衝突を避けると共に、その特許出願の登録を阻止することができる。


(3)成功率が高い

情報提供の対象はまだ登録されない出願であるので、すでに登録された特許を無効にすることに比較して、出願の登録を阻止するのが容易である。また、出願人は情報提供のことさえ知らない可能性があるので、十分に対応できない可能性が高い。


また、情報提供により完全に出願の登録を阻止しなくても、出願人に請求項を減縮補正をさせることができれば、侵害リスクを回避する目的を達成することができる。

3.情報提供の手続き


(1)特許出願に対する監視

競争相手の特許出願を継続的に監視することは、情報提供を有効に行なう前提である。


国家知識産権局の「中国及び多国専利審査情報照会」サイト(http:/cpquery.cnipa.gov.cn/)では、特許出願の現在の状態を調べることができる。このサイトを通じて、競争相手の公開された特許出願の内容だけではなく、審査意見通知書の内容及び請求項の補正内容を閲覧でき、出願の内容が自社製品に脅威となるかどうかを早期に判断することができる。


情報提供を行なった後、当該出願の状態を監視し続ける必要がある。審査官は情報提供の内容を参考にして拒絶理由通知書を発行するかどうか、出願人は請求項を補正するか否かを確認し、必要であれば、補正後の請求項について引き続き情報提供をすることもできる。


(2)情報提供のタイミング

『専利法実施細則』に特許出願の公開日から特許権付与の公告日まで情報提供を提出することができると規定されているが、『専利審査指南』の規定及び実務の経験によると、登録通知書を発行したら、情報提供をしても審査官が一般的に考慮しなくなる。従って、以下では、特許出願の公開日から登録通知書の発行までの期間において情報提供のタイミングについて具体的に分析する。


一般的に、特許出願は公開後に実体審査段階に入る。実体審査を請求する時および実体審査に入ってから3ヶ月以内に、2回の自発補正の機会がある。従って、自発補正を行うかどうか、及び自発補正を行なった場合補正内容を確認した後、自社製品が請求項の保護範囲に入るかを検討し、情報提供の必要があるかどうかを決定することを勧める。


実体審査段階に入ると、通常に半年から1年ぐらい(早期審査を請求すると1ヶ月または2ヶ月まで短縮される可能性もある)に第1回の拒絶理由通知書が発行される。この期間中に情報提供を行なうのが好ましい。それは、審査官が一般的に第1回の拒絶理由通知書で情報提供の内容を反映しやすくからであり、情報提供を準備する時間により余裕があるからである。


その後、出願人が毎回の拒絶理由通知書に応答した後、情報提供をすることが考えられる。審査官は、出願人からの応答を受けた後、反論理由が十分であると判断すれば、すぐに登録通知書を発行する可能性があるので、できるだけ早めに情報提供をさらに行なったほうがよい。従って、早めに請求項の補正内容を確認し情報提供を準備するために、特許出願の状況を持続的に監視する必要がある。


また、拒絶査定された特許出願について特に注意すべきである。普段、出願人は複審を請求することが多い。しかし、複審請求書の内容及び請求項の補正内容は、いずれも「中国及び多国専利審査情報照会」サイトに表示されないので、出願の実際の状況を把握することは困難である。また、審査官は前置審査で拒絶査定を取消し登録通知書を発行する可能性もある。この期間は1週間や2週間とかなり短いことがあるので、拒絶査定された特許出願に対して情報提供のタイミングはあっという間に過ぎてしまう可能性がある。


情報提供の準備時間が足りない状況があれば、私用電話で審査官に連絡し、強力な証拠を持って情報提供をしたいことを伝え、次回の拒絶理由通知書や登録通知書の発行をしないよう、と頼むことができる。ただし、審査官自身も審査期限の制限があるので、審査官を困らせないように、できるだけ早く情報提供をしなければならない。


(3)情報提供の内容

情報提供の意見書の書き方について、決められる規定がないが、できるだけ拒絶理由通知書を真似て書くことを勧める。このようにすれば、審査官は、拒絶理由通知書を準備する時により便利に情報提供の内容を参考することができ、ひいては、情報提供の内容を直接採用することができる。


実質的な内容について、引例に基づいて出願の新規性と進歩性を指摘するのが一般的である。もちろん、請求項が不明確、明細書よりサポートされない、新規事項などの他の欠陥を指摘してもよい。これらの指摘に対しても、出願人は請求項を補正して保護範囲を減縮する可能性があるので、請求項の保護範囲を回避する目的を実現する可能性がある。


また、情報提供書は形式上で拒絶理由通知書に似ているが、実質にはより高い要求があり、強力な引例を提供し、明確的かつ論理的、正確的に構成要件を比較して説明するべきである。簡単に言えば、無効請求書の基準で情報提供意見書を作成することが好ましい。


実務経験によって、以下の点に注意すべきである。
構成要件を比較する時に、対象出願の請求項における特徴が引例のどの構造に対応するかを明確に指摘し、対応の段落及び符号を記載するべきである。引例が外国語文献である場合に、審査官の参考のため、、引用された内容の中国語訳文を提供するのが好ましい。

これは、主に、審査官が情報提供の内容を容易に理解して採用するためである。


引例は、対象出願の請求項の技術要件を公開するだけでなく、対象出願の課題及び技術効果も公開するのが好ましい。

これは、出願人は課題の発見に創造的な労働が必要であり、複数の引例を組み合わせる技術示唆が存在しないとの反論を阻止するためである。


証拠を挙げずにある技術要件を公知技術として簡単に認定することを避ける。

情報提供者は一般的に出願人の競争相手であり、関連技術分野の従来技術をよくわかる者であるので、積極的に証拠を提供して特許の登録を阻止するべきである。公知技術に関する証拠を積極に提供しないと、審査官は、当該技術要件が公知技術であることを証明できる十分な証拠が実際に存在しないと考える可能性が高い。


引例1に明記された内容に基づいて主張し、、単純な論理的な論証を避ける。
審査官は、情報提供が行われた特許出願を審査する際に、実質的に中立な立場で判断する。単純な論理的な論証があまりにも多くなると、情報提供者は、実質的な根拠がなく、すべて主観的な認定であると審査官に感じさせ、結局、出願人を支持する傾向がある。

4.むすび


企業の知的財産権の保護意識が絶えず強化され、特許を武器として使って競争の優位性を獲得することがますます多くなる。そこで、情報提供は、競争相手の特許出願を攻撃し、相手の将来的な権利行使をけん制する強力な手段の1つである。持続的に競争相手の出願状況を監視し、適切なタイミングを選択して、十分な理由をもって情報提供を行うことは、この手段を有効に利用するカギとなる。