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電子証拠に対する認定基準

作者:金 明順 | 更新しました:2022-09-22 | ビュー:

1.初めに

情報化時代には、インターネットがますます普及し、多くの技術情報がインターネットを介して公開され、海外のウェブサイトで公開された技術情報も容易に入手できる。そして、特許無効審判では、当事者が、海外のウェブサイトで公開された技術情報を既存技術として提出することが多くなっておる。

このような技術情報は域外ネットワーク証拠の一種である。域外ネットワーク証拠は、域外証拠であって、さらに電子証拠でもある。

特許審査指南(2019年改正)によると、域外証拠は所在国の公証機関によって公証され、そして同国の中国大使館・領事館によって認証されたものか、若しくは中国と所在国の締結した関連条約に規定された証明手続を履行したものでなければならない。

また、電子証拠について、中国の電子証拠の認定に関する一連の法規定に従ってその真実性、関連性及び合法性を調べる必要もある。

本文では、有名な動画サイトYouTubeで公開した動画を例に挙げて、インターネットビデオのかたちで提出した既存技術情報について、特許無効審判における認定基準を分析し、インターネットビデオのような電子証拠が公式に受け入れる可能性を高めることを期待する。


2.YouTubeの動画が既存技術になるか否かについて

特許無効審判でYouTube動画を証拠として採用した案件を検索した。

中国本土(香港、マカオ、台湾を除く)ではYouTubeにログインできないため、特許無効審判において、中国本土以外のログイン可能な地域でログインして関連動画をダウンロードし、無効審判手続きの証拠形式の要求を満たすように現地で公証と認証手続きを履行する必要があることは既に確認したものである。

例えば、第27239号(決定日:2015年09月30日)無効審判決定書では、合議体は、公証されたYouTube動画である証拠8を既存技術の証拠として採用した。

対象特許は、モップ絞り器と付属モップに関する。無効審判請求を提出する際、請求人は、対象特許の新規性欠如や創造性欠如の無効理由を支持するため、複数の証拠を提供した。その中の証拠8が台湾桃園地方裁判所の公証所が発行した公正証書及び添付書類である。具体的に、「公証人が2014年4月21日にパソコンでwww.youtube.comにログインし、依頼人の要請に応じてある動画を検索する」ことを公証した。また、インターネット上で公開された「好神モップ――次世代双動力」とのブランドのモップと一緒に使用されたモップ絞り器の動画のスクリーンショットを写真として公正証書に添付した。公正証書に添付された動画の写真の第2頁には、「アップロード時間:2010年4月19日」と表示されている。

これに対して、特許権者は、証拠8には当該動画の原本が付いていないため、その真実性を疑ったが、口頭審理の後に請求人が原本を補充できる場合、合議体によりその真実性を確認することに同意した。最終的に、証拠8の真実性は、合議体によって原本と一致すると確認され、さらにその真実性を疑う反対の証拠がないため、合議体は上記証拠8の真実性を認めた。

その理由について、合議体は下記のように述べた。

「インターネット証拠が信頼性の高いサイトに由来し、当該サイトで公開された内容は豊富で、閲覧数も多く、公開内容を修正すれば修正時間は当該インターネット証拠に明らかに記録され、かつ公証・認証手続きもあるため、当該サイトが請求人や特許権者との利害関係があることを示す証拠がない限り、当該サイトは事件外の第三者サイトに属する。さらに、当該動画の内容とアップロード時間を任意的に変更することを証明する証拠がない場合、当該サイトでは動画を変更するまたは置換する人為的な意図もなく、当該公開内容の真実性を確認できる。また、一般的なWEBサイトで、アップロード時間は、ファイルがアップロードしてからシステムにより自動的に生成された時間であり、さらに関連ファイルを正常に閲覧できる時間でもある。そして、本件では上記動画の公開時間がアップロード時間に準ずる。本件の証拠8中の公正証書に添付されたビデオの写真の第2頁には、アップロード時間が2010年4月19日であると示しているので、その公開時間は2010年4月19日であると推定し、対象特許の出願日より前である。したがって、前記ビデオの公開内容は対象特許の先行技術に属し、本特許の新規性または創造性を評価するために使用することができる」と認定した。

また、第55367号(決定日:2022年04月18日)無効審判事件では、合議体はYouTubeで公開された関連情報を証拠として採用し、証拠の形式的な真実性、実質的な真実性及び公開時期、改ざんの可能性などの方面から当該証拠を審査し、高い蓋然性の証明基準に基づいて、最終的に当該YouTube動画証拠が既存技術になる結論を得た。

本件の対象特許は、視力欠陥を検出するための機器に関する。無効審判を提出する際に、請求人は、対象特許の新規性欠如や創造性欠如の無効理由を支持するため、YouTubeにて公開された複数の動画を提出した。また、これら動画のダウンロード手順及び動画の内容を証明するため、請求人は、「インターネットでダウンロードしたデータに関する声明書」を追加した。この声明書は、香港弁護士が提供した公正証書なので、中国司法部の規定により、「中華人民共和国司法部による香港弁護士を委託して本土で使用される公正証書を発行する転達専用印」が押されている。

合議体は、審査を経って、この公正証書の真実性に影響を与える明らかな欠陥を見つかっていないため、その真実性を認め、引いてにYouTube動画の真実性も確認し、上記YouTube動画の公開内容が既存技術である、と認定した。

一方、YouTube動画の証拠が無効審判段階で認められず、その後の行政訴訟において認められたケースもある。第38153号(決定日:2018年11月29日)無効審判決定書はその一例である。

対象特許は、倉庫保管式自動アクセス機器用商品運搬装置に関わる。請求人は、対象特許の内容が出願日前に既に自社から生産・展示・販売した設備により開示されたことを証明するために、一連の証拠を提出した。そのうち、証拠3は、「YouTubeで公開された、Cleveron AS(請求人)が2015年世界郵便博覧会で展示した製品pacckの宣伝映画」である。

これに対して、特許権者は、請求人が提出した証拠3について、公証・認証手続きを受けず、さらにYouTubeは正常にアクセスできないサイト、すなわち中国本土でのログインが禁止されるサイトであるため、当該証拠は、合法性、完全性、公開性を有しないと主張した。

請求人は、口頭審理の当日に、声明者としての董逸文により提供した声明書を証拠3の補強証拠として追加した。

声明書には、声明者である董逸文が本件無効審判請求と後継の行政訴訟手続きの処理に協力すると記載されている。また、YouTubeに公開されたある動画を証拠として使用する必要があるのに、YouTubeは中国本土でアクセスできないため、香港で当該動画をダウンロードすることになっておる。そして、香港のある場所にて、王楚雲弁護士の現場監督で、董逸文はインターネットに接続されたパソコンを操作し、関連ページを開いてスクリーンショット、録画、ダウンロードして、上記動画ファイルをコピーして収集・保存したとの一連の流れが声明書に記載される。この声明書には、声明者(董逸文)本人の自筆署名、中国依頼公証人・香港弁護士である王楚雲が監督者とした自筆署名と押印、「中華人民共和国司法部による香港弁護士を委託して本土で使用される公正証書を発行する転達専用印」のコピーがついている。

合議体は、「証拠3の補強証拠における2つの動画のダウンロードアドレスが証拠3の2つの動画のインターネットアドレスと同じであるため、補強証拠により証拠3における2つの動画が香港でYouTubeからダウンロードしたことを証明できる。しかし、YouTubeは、動画共有サイトの一つであり、動画の内容が確実ではない性質があり、請求人がそのサイトの動画配信ルールと変更ルールを提供していない場合、証拠3と証拠3の補強証拠だけでは、証拠3の2つの動画が標記された配信時間に実際的にアップロードされたか確認できない。つまり、配信日にアップロードされた動画がその後修正されたかまたは編集されたか否かを確認できない。即ち、動画の公開時間を確認することができない」と認定した。

この認定に基づいて、合議体は、請求人の、関連動画が出願日前に公開されたという主張を認めず、証拠3の2つの動画に示した内容および関連ページも対象特許の新規性と創造性を評価するのに使用できないと判断した。

請求人は合議体の認定に不服し行政訴訟を提起した。裁判所は、証拠3に関する特許庁の認定が不当であり、今回の無効決定を取消し、無効決定を再度発行するとの判決((2019)京73行初6131号)を下した。

裁判官によれば、通常、ユーザーがビデオ共有サイトでビデオを投稿すると、ビデオの公開時間がサーバーによって自動的に生成され、ビデオが正常にアップロードされると、他のユーザーがビデオを見ることができ、ユーザーがウェブサイトのデータを跡形もなく任意に修正することが難しい。また、YouTubeは国際的大規模なビデオ共有サイトであり、ネットワーク監視およびレビュー体制を持っており、ユーザーがそのデータを自由に変更することができない。したがって、特許権者が反対の証拠を提出しなかった場合、請求人の提出した証拠3により、請求人は対象特許の出願日前に上記2つのビデオがウェブサイトで公開されたことを証明できることだ。これに基づいて、復審委員会はこの証拠3を既存技術として本件特許の新規性、進歩性を再度評価すべきとの判決が下された。


3.まとめ

上記事例から分かるように、YouTubeは信憑性の高い動画サイトとしてそちらからダウンロードされた動画は無効審判で証拠として使われる。しかし、中国本土では、YouTubeにアクセスできないため、YouTubeからダウンロードされた動画は、域外証拠としての審査指南に規定された公証・認証手続きが必要である。

ただし、第38153号無効審判決定書の経緯を考慮し、YouTube動画の既存技術との主張が否定される可能性をできるだけ低めるため、動画証拠とともに、YouTubeに関する紹介、YouTube動画が特許無効審判・行政訴訟によって証拠として認定された先行判例など、YouTubeの信頼性を証明できる情報も提供することを提案する。

なお、インターネットの時代において、先行特許文献・書籍よりもたくさんの情報がインターネット上で流れる。無効審判請求を提出する場合、ネット上の情報もしっかりと調査する必要がある。



参考資料:

.「中国特許詳解」、尹新天著;

2.「特許確権事件における証明基準問題_既存技術の証拠としてのYouTube動画の認定を評価する」、中国発明と特許2019年3月第16巻第3期、武樹臣著;

3.「ネット証拠を既存技術(設計)とする認定基準を分析する」、呉恙著;

4.「特許無効審判におけるインターネット証拠の効力認定研究」、宋静娜著;

5.「特許無効審判のプロセスで域外ネットワーク証拠を提供する方法」、中国知的財産権報、20170823、昌学霞、樊延霞、何苗著;