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技術ライセンスにおけるリスクと予防対策

作者:張 濤 | 更新しました:2020-01-03 | ビュー:

技術ライセンスとは技術の所有者が該当技術を特定期間内、特定の地域内で有料或いは無料の形で、特定対象にライセンスを与える法的行為である。技術ライセンス契約には一般的な契約に発生しやすいリスク以外、その性質による特有のリスクがある。本文では中国において技術ライセンス契約におけるリスクと予防対策について紹介する。

 

1.ライセンス期間

ライセンス期間における技術ライセンスのリスクは主に次の二つの面にある。

(1)ライセンスの開始日から直ちに実施することができない。

技術を直ちに実施することができない場合には、ライセンサーとライセンシーにとって、経済的な損失を起こすことになる。ライセンサーは技術の実施からライセンスロイヤリティを徴収することができない。一方、ライセンシーは技術の実施から収益を得ることができない。

これに対して、ライセンサーは技術契約が成立した後及びライセンスの開始日から早めにライセンシーに必要な技術指導及び設備のサポートを提供できる。これにより、ライセンシーは準備時間を短縮して、早めに技術を実施することができる。

(2)ライセンス期限が切れた時、技術の実施を直ちに終わらせることはできない。

工業生産では、通常、技術ライセンスの期間が終了しても直ちに工業生産を終了することができない。ライセンス期限の後に、在庫材料、半完成品を完全に使い切ることができないか、或いは製造した製品は販売に出されていない場合がある。前記原因で、技術の実施を直ちに終わらせることはできない。

この場合、ライセンサーとライセンシーにライセンス期間後にさらに製造・販売の停止期限を設定し、該期限内でライセンシーが在庫原料などを用いて製品を製造、販売することは容認される。また、ライセンサーも停止期限前に製造・販売した製品に対し、引き続きライセンス費用を請求することができる。

 

2.ライセンス対象

ライセンサーは、ライセンス契約においてライセンシーの範囲を明確化する必要がある。即ち、ライセンシーの範囲は、該ライセンシーの親会社、子会社、関連会社、持株会社などを含むか。規定が明確ではない場合、複数のライセンシーは同時にライセンスを使用する可能性がある。この場合、ライセンサーはライセンス契約の履行を監視し難く、ライセンスロイヤリティを回収するための基数も統計し難く、ライセンサーの経済的利益が損ねられることになる。また、競合相手があるライセンシーの株式所有権を取得することで該ライセンシーを支配し、ライセンスを間接的に獲得する場合もある。

これに対し、ライセンス契約にライセンシーの範囲を明記し、必要であれば除外条項を設定することにより、ライセンシーの範囲に包含される可能性のある他の会社を明確に除外する。

 

3.ライセンスの種類

中国において、技術ライセンスには、通常実施権ライセンス 、専用実施権ライセンス 、排他実施権ライセンス(特許権者とライセンシーとの両者が特許権を実施可能なライセンス形態である)が含まれる。従って、ライセンス契約において、該ライセンス契約はどのライセンスに属するのか、ライセンシーによるサブライセンスが許可されるか、また、サブライセンシーによる再度のサブライセンシーが許可されるかなどについて明確に規定する必要がある。

サブライセンスが許可される場合には、複数のサブライセンシーが同時に技術を実施することがある。ライセンサーにとってライセンスロイヤリティを回収することが難しくなる。

 

4.ライセンスの地域

特許技術のライセンスの地域範囲は、特許権所在国の地域範囲を超えてはいけない。そうしなければ、他国で他人の特許権を侵害する虞がある。

 

5.ライセンスの技術内容

ライセンス契約における技術内容が実際にライセンシーに提供するべき技術と異なっていてライセンシーが対象技術を実施できない場合、ライセンサーは契約違反の責任を負う(「契約法」第349条)。

 

6.ライセンシーの訴訟資格

ライセンスの実施過程において、ライセンシーはライセンス契約に関わる技術を実際に実施し、関連製品を製造/販売する。よって、ライセンサーと比べ、ライセンシーの方は市場状況により関心を持つので、侵害行為をより早く気づき、対策を取ることができる。しかし、ライセンシー(特に通常実施権ライセンスの場合)は訴訟資格が無い場合、次の状況を起こす可能性がある。

① 侵害行為に対して迅速に対策を取ることができないことにより、収益が低下し、ロイヤリティに影響を及ぼす。

② 第三者により権利侵害として訴えられる場合、迅速に対応することはできない。

従って、ライセンス契約において、ライセンシーに訴訟資格を付与すべきであり、かつ訴訟費用の配分を明確に規定すべきである。

 

7.契約における特許権濫用

中国「契約法」第329条に、「違法的に技術を独占し、技術の進歩を阻害し、または他人の技術成果を侵害する技術契約は、無効とする」と規定されている。「最高裁による技術契約紛争事件審理の法律適用における若干問題に関する解釈 」の第10条によれば、以下の状況は「技術の違法的な独占、技術進歩の妨害」に該当する。

①   ライセンシーの技術再開発を制限すること。

②   改良技術を安価又は無償でライセンサーに提供するようにライセンシーに強制的に要求すること。

③   ライセンシーが代替技術を取得することを制限すること。

④   ライセンシーが特許技術を合理的に実施することを妨げること。

⑤   違法的な抱合せ販売

⑥   特定なルート又は購入先のみから原料、部品及び設備などを購入するようにライセンシーを制限すること。

⑦   ライセンシーに対して、ライセンスされた特許の有効性に対する異議申し立てを禁止すること。

 

「反独占法 」第55条に、「事業者が知的財産権を濫用し、競争を排除、制限する行為には、本法を準用する 」と規定されている。

前述の法律法規の規定に違反した場合、ライセンサーにとって以下の法的リスクがある。

①   違法契約の条項は無効になる(「契約法」第329条)。

②   特許及び実用新案について、国務院行政部門は実施条件を備える団体又は個人の申請により、特許又は実用新案を実施する強制許諾を与えることができる(「特許法」第48条)。

③   違法行為の差止めを命じ、違法所得を没収し、前年度の売上高の1%以上10%以下の罰金に処する (「知的財産権濫用による競争排除・制限行為の禁止に関する規定 」第17条)。

④   ライセンシーに損失をもたらした場合、ライセンシーは民事訴訟を提起し、ライセンサーが民事責任を負うことを要求できる。

 

そのため、制限条項を立てる場合、ライセンサーとライセンシーの利益がバランスを取るように下記の原則を考慮すべきである。

(1)報酬合理化原則

ライセンサーは、ライセンスされた技術による利益から合理的な報酬を取得できる。

(2)利益バランス原則

技術が実施された後、最終製品から得た利益は完全にその技術に依存するというものではなく、ライセンシーの経営能力、融資能力、販売チャネルの拡大能力などにも依存する可能性があるため、該技術が実施された後にもたらした利益の配分は技術のみに依存すべきではない。

(3)最小限原則

ライセンサーが合理的な利益を得る以外にさらに契約でライセンスに対して何ら制限を行っていけない。

                                

以上のように、技術ライセンス契約におけるリスクや予防対策を簡単に紹介した。しかし、上記リスク以外に、技術ライセンスには上記「契約におけるリスク」と異なるリスクがたくさんある。例えば、特許有効性によるリスク、技術自体の欠陥によるリスク、技術秘密(ノウハウ)の漏洩によるリスク等である。これらのリスク及び予防対策については、後日説明する。